女性客に大人気の店です。
平日のランチタイムに行ってみれば、それがよくわかります。
パスタ・ドリンク・スイーツのセットが1500円程度と、決して安くはありません。それでも、地元の女性客を、本当によく集めています。
おいしさのみならず、接客のやわらかさが大きな要因だと思います。
近江八幡市はポコッとした町です。ほんとにポコッと、そこだけがやすらぎを醸し出しています。住民にとってずっと住みたくなる町を目指すという基本理念がしっかり根付いているのでしょう。
野洲市、東近江市、守山市、甲賀市、湖南市・・・近辺にはいくつもの市があります。これらは、人口が急増したり、合併によって規模が拡大して生まれた市です。
その点、近江八幡は、安土桃山時代にはすでに商業都市機能を遺憾なく発揮していました。そこが違う。根差すものが違う。そう思うのです。
その近江八幡市の市街地を少し外れたあたり、県道2号大津能登川長浜線沿いに位置しています。野洲市~彦根市の県道2号線には、「朝鮮人街道」という古い俗称があります。
私の場合、「朝鮮人街道て、そんなこと言うてもええのかなあ」と逡巡してしまいますが、地元の人たちは屈託なく口にします。
史実に基づけば、朝鮮通信使が最恵待遇の国賓である証として、この道を通行していました。したがって、軍国主義時代の侵略戦争以降に生まれた差別的呼称とは次元を異にする呼び名です。
さて、凛じろうの売りは、釜ゆでパスタです。釜と言っても、実際のところは特大寸堂鍋です。幼稚園くらいの子供なら風呂代わりにできそうなサイズです。
その特大鍋には、常にたっぷりのお湯が底から湧き上がっています。そのなかに麺の束をぱっと投げ入れ、頃合いを見て金網ですくい上げ、それをさらに大きな竹ザルの上で蒸らします。
一連の作業風景を見ていますと、大きな竹ザルがミソじゃないのかなと思えます。麺が内包する熱で茹で上がりに最終微調整を加えているように見えます。
茹で上がりのよさは、実際に食べてみないかぎり、言葉を尽くしても伝えきれるものではありません。アルデンテの具合が、たしかに違うのです。
芯に歯応えを残すといった仕上がりではなくて、麺の直径全体に歯応えを残した仕上がりです。万人向けである市販の麺ではこうはならないと思いますから、店独自の麺をどこかに発注しているのではないでしょうか。
パスタの店ですが、イタリアンではありません。むしろ和風指向です。和風指向の創作パスタです。
私と妻お龍は、このえもいわれぬ茹で上がりを生かして、トマトやチーズのソースでもっとオーソドックスなレシピにしてくれと思います。とはいえ、ごてごてとした独善的な創作パスタではなくて、そのあたりの手加減に商売上手を感じます。
それに、味つけの基本がきちんとしています。アーリオオーリオやクリームソースまでが和風に流されてしまっているわけではありません。オリーブオイルでニンニクを炒めるあの強烈な香り、食欲を刺激して止まない香りが、キッチンからテーブルへと、漂ってきます。
接客のやわらかさは、男性スタッフに至るまで徹底されています。あと一歩でオネエになりそうなほどです。
掃除も行き届いていますし、客が去ったテーブルを抗菌スプレーできれいに拭き取るなど、なんでもなさそうなところにも心遣いが見えます。
ほんと、女に好かれるメソッドを習ったみたいな気分です。
ツメ切れよ、鼻毛伸ばすなよ、加齢臭と口臭はご法度やぞ。常に女が正しいことにしとけよ。
私は、「ほうれん草とベーコンのクリームソース、温玉のっけ」を注文しました。後半は、期待通りに、カルボナーラっぽくなってくれました。
おあずけ!ブロガーの妻は辛い。写真撮影するまで食えません。お龍は、「めんたいこパスタ、よもぎ麩入り」です。
ブラインドの窓に面したテーブル席。4人がけの席が主体。女性を集めたければ、ひざかけを欠くことはできません。
カウンター席。積まれているのは、パスタ用のボウル型食器。これが食べやすさと冷めにくさに貢献しています。
うなぎの店「炭櫓」と駐車場を共有しています。この炭櫓も、うなぎに関するトレビア冊子をテーブルに配するなど、工夫と気遣いの行き届いた店です。
凛じろうは、有限会社「凜Style」が展開するなかの一店舗です。本拠地は京都市山科区東野です。京都府下にせよ、滋賀県内にせよ、人口集中地域を外れたスポットに店を出してきたように思えます。
凛Styleのサイトで見ていただければ、それがわかってもらえると思います。
私たちも、系列店のひとつである「ひより水口店」で食べたことがあります。そのときにも、「あ、ここはおいしいな」と思いました。でも、凛Styleが母体であることまでは知りませんでした。
冒頭に言ったように、女性のハートをつかんだ店です。この夜も、女子会らしき一団が、閉店間近まで楽しげに過ごしていました。
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