世間の関心は、餃子の王将社長に移りました。
いや、餃子の王将社長の事件だって、ホットな話題でいられるのは、せいぜい1日か2日。
いまこれを書き始めた私だって、話題がすでに色褪せつつあることを自覚しています。ちょっと固くなりかけたアンパンを食べているような気分です。
え?猪瀬知事辞職が目的ではなかった?
猪瀬直樹という都知事、よほど議会から嫌われてたんですねえ。
各党とも、猪瀬下ろせで一致団結しているように見えました。出直し都知事選に強力な候補者を擁立できる勝算もないというのに、です。
党利党略を放り出してしでも議会をあげての猪瀬斬り。
こりゃ前代未聞の嫌われ方だなあ。
と、私は思ってたんですよ。
都議会が、百条委員会を開催してさらに厳しく追求すると言い出しました。
こりゃいかんとばかりに、知事は辞職を表明しました。
そしたら、都議会は、知事が辞めるのなら百条委員会は不要とばかりに、開催案をすっと引っ込めました。
この幕切れを見れば、なんや、真相究明は大義名分か、知事を辞職に追い込みたいだけやったんかと、普通は思いますよね。
ところが、これは大間違いでした。議会はべつに辞職まで望んでいなかったというではありませんか。
たしかに、猪瀬知事は議会から総スカンを食っていたそうです。なにかといえば430万票という都民からの支持を持ち出して、ブイブイ言わせてたらしい。議会への根回しもなく政策を進めようとしたりで、居丈高だったようです。オリンピック招致に成功して以降は、さらに傲慢さを増したといいます。
しかし、そんな知事であっても、辞職に追い込むまでの意図なんて、実は議会になかったそうです。
昨日(12月20日)の中日新聞が、この裏側を報じています。
あの生意気な猪瀬をこてんぱんにやりこめて、二度とデカい顔ができないようにしてやろうというのが、本当の狙いだったそうです。
自民党は都知事選に持ち込みたくなかった?
都議会を牛耳っているのは自民党議員たちです。したがって、大筋は、自民党の意向で進められました。
自民党は新たな都知事選を望んでいなかったと、中日新聞は言います。というのも、消費税増税、特定秘密保護法と、ゴリ押しで決めてきた。そんな自民党への反発が出直し都知事選挙にどう現れるのか。無党派層が主流の東京ですから、まったく読めません。
実際、都知事選になることが決まってからも、自民党色をあまり表に出さずに候補者を支援する方策が模索されていると、中日新聞は言います。特定秘密保護法強行採決以降の内閣支持率低下。難しい選挙になるのだそうです。
よって、自民党の本音は、猪瀬下ろしではありませんでした。猪瀬のキンタマさえ握れればよかったのです。そうすれば、選挙の労苦もなしに、自民党にアタマの上がらない知事を生み出せるわけですよね。
けれども、やり始めてみたら、世の中に、猪瀬辞職の期待感が高まってしまいました。マスコミも世間を煽りました、自民党は、その空気を無視するわけにもいきませんでした。猪瀬知事の辞職で事態を終えなければかっこつかないという状況になってきました。
猪瀬知事の人柄と裏金が招いた当然の結末かと思っていた私は、思いもかけない裏側を報じるニュースに出会って、食い入るように紙面を追いました。
徳洲会マネーでいちばん潤っているのは自民党
そもそも、裏金追及は、自民党にとって諸刃の刃だったと、中日新聞は書いています。
徳洲会グループからの徳田マネーの恩恵に浴してきたのは自民党も同じだと、中日新聞は言います。猪瀬が受け取ったような金は自民党内のあちこちに流れ込んでいて、その恩恵の受け方は猪瀬以上だと。
猪瀬直樹に金を送った徳田毅議員がなぜ糾弾されないのかと、たいていの人が首をかしげていたことでしょう。中日新聞も、自民党が徳田毅議員に優しすぎるおかしさを挙げています。ついこのあいだ、11月まで、徳田毅議員は自民党党員でした。公職選挙法違反で妹2人が逮捕されてから、離党しています。
こういうことを知ってから振り返れば、都議会が中途半端な追及を繰り返していた理由がわかります。枝葉末節ばかりを問いただし、いったい何のために受け取った金だったのかをはっきりさせようとしませんでした。
裏金の真相を解明するまじめさなんて自民党にはなかった。新しい都知事で都政をやり直すだけの前向きさもなかったわけです。
結局のところ、私たちは茶番を見せられていたことになります。それなのに、私は、けっこう興味津々で見ていました。アホやなあ、まだまだ甘いなあと、自分で自分をバカにしたくなります。
たとえば、5000万円をどんなカバンで運んだかなんて、どうでもええことやないですか。運べるように運んだに決まってます。
東京都知事と東京都議会議員ですよ。そのオッサン2人が、全国向けニュース映像のなかで、このカバンに入るとか入らんとか。
ねえ。
「そのまま押し込んでください」と、都知事自らやってみせた。そしたら、チャックが閉まらへん。
都議は、鬼の首をとったかの如くに、「みなさん、閉まりません。チャックは、この通り、開いたままです」。
あれで、都議のズボンのチャックが開いてたら、百年に一度の大笑いでした。
---次の方、どうぞ。
ここで呼ばれました。彦根市の医院待合室で中日新聞を読んでいたからです。読みかけの新聞を元の棚に戻し、自分のズボンのチャックを確かめてから、診察室に入りました。
何もかもが曖昧なままの幕切れ
百条委員会で追求するぞという脅しが知事攻略の決め手、すなわち、知事を辞職に追い込むために、都議会から先に王手をかけたのだと、私は解釈していました。
けれども、いろいろな新聞を読めば、先に王手をかけたのは、猪瀬知事のほうだったことが分かります。
百条委員会は、べつに知事を辞職に追い込むための仕組みではありません。辞めさせたいのなら、知事の不信任決議だけで充分です。
議会は、もちろん、それを武器にしました。こっちはいつでも不信任決議をやってのけるぞと。
その成り行きを避けたい猪瀬知事は、不信任決議が通ったら都議会を解散するとの脅し戦法に打って出ました。
猪瀬知事から議会や自民党へ向けられた王手です。
解散とは、すなわち都議会議員選挙のやり直しです。どの都議だって、せっかく手にした地位を失うリスクは避けたい。解散できるものならやってみろと、口では勇ましいことを言えても、心から解散を望む議員なんて、ひとりもいないことでしょう。
そこで、都議会側は、百条委員会開催を本気で考えているような姿勢を打ち出しました。
都議会から猪瀬知事への王手返しだと、私は思います。
百条委員会ともなれば、猪瀬知事にもう偽証は許されません。公職選挙法違反を洗いざらい暴かれます。作家猪瀬直樹として再起することすら、困難でしょう。知事の早期断念を促すには、格好の一手でした。
とはいえ、猪瀬知事のこれまでの言行を踏まえれば、負け将棋覚悟で無茶な戦法に出る可能性は残っていたといいます。
ましてや、ターゲットが徳田マネー。
しかも、かつては舌鋒鋭く世をうならせたジャーナリスト猪瀬直樹。
破れかぶれで百条委員会に臨まれたら、むしろ危ういのは自民党ではなかったのでしょうか。徳田マネー疑惑が、どの議員に飛び火するか分かったもんではありません。
猪瀬知事にすべてを諦めさせる必要性があったはずです。
安倍首相は、都庁に捜査が入るのはよくない、段ボール箱がいくつも運び出される映像を世界に流したくない、とも言っていたそうです。
自民党は、高村副総裁が、知事自らの決断で辞職すべきだとのメッセージを発しました。
「知事の職務権限と関係する仕事をする人から、5000万円の大金を受け取ったという外形的事実だけで、知事自身が出処進退を決断するのに十分だ」と言ったわけですが、とり方によっては含みのある表現です。「外形的事実だけで辞職してくれたら、検察の動きはこちらで止めるから」という取り引きのようにも聞こえます。
安陪首相は石原前都知事と密談し、石原ルートでの辞職勧告をお膳立てしました。
表向きは、都政をこれ以上停滞させてはならないとの理由ですが、百条委員会も開きたくない、都議会解散も避けたい、それでも猪瀬は抹殺したいの本音が見え隠れするではありませんか。
ここなんですねえ。ルールに則った正攻法があるというのに、裏での解決を図ろうとする。
石原前都知事が辞職を勧める説得役に当たり、猪瀬知事はもう勝ち目がないことを承服せざるを得なかったのでしょう。そして、何もかもが曖昧なままに終わってしまいました。
5000万円の真相が選挙のための裏金だったことは状況からみて間違いありません。けれども、公式事実としては何も残らないままです。
5000万円で始まったはずの猪瀬バッシングが、5000万円を見て見ないふりをする幕引きで終わった。こんなアホなことありますか。
猪瀬知事はなぜ辞めた?正当な理由は何も見えない
猪瀬都知事の肩をもつ意図は毛頭ありません。けれども、ああまたこういう政治が戻ってきてしまったのかと、とにかく気分のわるい出来事でした。おもてなしじゃなくて、表なし。表を見ていてもなんにも分からない。裏でものごとが進むからです。
なんのことはない。都議会も猪瀬知事も、百条委員会を開きたくはなかったし、知事の不信任決議も避けたかったわけじゃないですか。ある意味、両者の利害は一致していたといえるでしょう。
そしたら、その両者が繰り広げたのは、いったい何だったのでしょう。両者はいったい何を争ったのでしょう。保身争いだけです。
猪瀬知事はなぜ辞めた?
ここまでの流れだけなら、自民党がそれを望んだからだというしかありません。
では、自民党は、なぜ猪瀬知事の辞職を望んだのか?
これも、まったくはっきりしないままですが、自分たちの言いなりになる知事ではなかったからということなのでしょう。
王将で、お香典代わりに餃子を食べた
江戸のアホくさい王手合戦に決着がついたその日、京で殺されたのは、餃子の王将社長でした。
みんなの関心が一気に王将社長殺人事件に移ったのも当然です。
虚をつかれたとはまさにこのことで、有名企業の経営者が暗殺のようにして殺されるなんて、あまりみんな思い描いていません。
加えて、誰にも身近な餃子の王将です。週に何回も食べに行く人から、看板を目印に道を曲がっているだけの人まで、人の数だけの受け止め方がこの殺人事件にはあるように思います。
名神高速道路の多賀サービスエリアには、餃子の王将があります。2010年秋、多賀サービスエリアは、集客力アップを図るために、多目的型休憩所であるEXPASAに生まれ変わりました。そのときにテナントとして出店したそうです。
この日も、長距離トラックの運転手や営業マンで、店は満杯に近い状態でした。
いつものように、ラーメンと餃子を食べました。
大東社長の殺害現場は、阪神高速8号線の山科出入り口に近いところで、私もときおり通りかかることがあります。人通りのない淋しい場所でもないのに、夜明けが遅いこの季節だけに、目撃談も少ないのでしょう。
いまのところ、どれだけ新聞を読んでも謎が明らかになりません。
ーーー今日は、お香典のかわりに食べに来ました。
レジでそう言いながらお金を払いました。
ーーーありがとうございます。
店員さんが満面の笑みで答えます。
お互いに笑顔でよかったんでしょうか。
こちらの王将殺しには、王手の気配すらありませんでした。
不幸な死に方ではありますが、「社長、ご苦労様でした」と、客までがいま思っている。そんな気持ちに見合った笑顔なら、決して不釣り合いではない気がします。
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