富山県高岡市のオステリア タイキで、ネロパルマ豚のオーブン焼きを食べました。
ネロパルマ豚はものすごく珍重されている品種なのですが、「あれ?こんなもん?」という感想です。
ネロパルマ豚を原語で表記すると、nero di Parma。neroは、イタリア語で黒ですから、パルマの黒豚ということになります。写真でごらんいただくように、前胸部に2本の垂れ下がりがあります。これが特徴だそうです。
http://www.salumificiopedrazzoli.it/nero/から転載
「ネロパルマ豚」で検索しましても、検索結果の先頭にオステリアタイキのブログやFACEBOOKがくるくらいで、詳しい話には行き着きません。原語の「nero di Parma」で検索しますと、検索結果はいっぱい並ぶものの、イタリア語のサイトばかりで、さっぱり分かりません。
そんななか、「飲食業界.com」に、「イタリア産希少品種の黒豚 ~『スイーノ・ネロ・パルマ』」と題する食材紹介記事がありました。
それを引用します。
イタリアのパルマ南西に広がる山岳地帯で放牧されている「ネロ・パルマ」という黒豚をご紹介致します。総数で1000頭足らずの幻の豚は、日本への出荷量は週1~2頭程度の稀少な品種です。価格はD.O.P.を取得しているグラン・パダーノ豚と比べても生体時点で数倍する高価な食材となります。同地は肥沃な自然環境を有しており、古くより美味しさに富んだ黒豚「ネロ・パルマ」の有名な産地であったのですが、産業の近代化に圧されて18世紀に固有種は絶滅してしまいました。しかし現地は、現代においても環境破壊のない、かつてと同様の自然環境であることから再現できる可能性を見出し、十数軒の農家が共同で数年の歳月をかけて伝説の黒豚であった「ネロ・パルマ」を復元しました。
牛肉のように「熟成」させて旨みの極みを迎える豚肉である「ネロ・パルマ」は、従来の豚肉の概念には当てはまらない品質であるため、逆に調理法に合わせたきちんとした熟成をおこなっていないと、この豚の真価を味わうことはできないのです。調理法と肉の取り扱いの両面に長けた方であれば、豚料理革命を起こすこと間違いないポテンシャルを秘めた素材です。
この解説文からも分かるように、希少である・高価である・熟成を必要とするの3点が、普通の豚とは大きく異なるところです。それを、オステリアタイキは、不定期ながらもメニューに加えているのですから、かなり意欲的な店だと思えました。
ネロパルマ豚のオーブン焼きですが、出来上がるまでに1時間ほどかかるそうです。よろしいでしょうか?
店のスタッフが、確かめにきました。
キッチンをシェフたったひとりで受け持つ店です。手の込んだ料理に時間を要するのは当たり前です。1時間くらいなら待ちますと答えました。
自家製フォカッチャが出てきました。飲み物は、名前を忘れましたが、ノンアルコールのカクテルです。アルコールの有無にかかわらず、カクテル類は1杯600円です。
まずは、野生ルッコラのサラダ(柿のドレッシング)を食べました。
野生のルッコラは、どこに、どんな風に、生えているのか。
店のスタッフによりますと、契約農家さんが作っているとのことでした。人が育てているのでは野生といえません。おそらくですが、農地のどこかに自生しているということなのでしょう。
ルッコラといいますと、ちょっと苦いとか、ゴマに似た香りがあるとか、クセを持っている野菜です。ところが、皿の上のルッコラは、そうしたクセが目立たず、独特のクセがむしろ隠し味になっているようなまろやかさでした。柿のドレッシングとの相性がよくて、ルッコラの新しい魅力を見つけたような気持ちでした。
ミニ日野菜といった歯応えと辛味のラディッシュが、とてもいいアクセントになっています。ルッコラだけでは退屈しがちなところを、よく救っています。
次に食べたのは、キッシュです。具はほうれん草とベーコン。ソースには白いんげんが使ってありました。
これも手の込んだ一品ですが、正直言って、そうおいしいと思いませんでした。白いんげんソースのベースになっているトマト・ソースが既製品ぽくって、その安っぽさが全体の足を引っ張っている気がしました。
食べログの口コミには、「中でも一番衝撃的だったのが、キッシュ!
なんともトロリと優しいキッシュ!初めて食べたのですが、4人でわけずに一人で全部食べたいと思わせられます^^」というほめ言葉もあります。
キッシュの中味はあれこれ変わることでしょうから、私の巡り合わせがよくなかったのかなと思います。
そして、ネロパルマ豚のオーブン焼きが出てきました。
分厚いブロックです。外側をまずクリスピーに焼き上げた後、その分厚い肉のなかまで、じっくり、しっくり火が通してあります。この焼き加減は難しそうです。根気よく焼き上げようとすれば、出来上がりまでに1時間かかるのでしょう。
あれ、大味だなあ・・・上等な肉を食べてる感じではないなあ・・・
ひと口目でそう思いました。
店のスタッフには「おいしい」と伝えました。この言葉に嘘はなくて、不味いという表現はまったくの的外れです。しかし、笑顔が生まれるまでのおいしさではないことが、どうにも解せません。塩加減が足りないことはハッキリしています。
しかし、味つけというのではなさそうです。
肉自体、もっとコクが凝縮されていてもよさそうですし、じんわりと旨味が溶け出してもよさそうなものです。黒豚のこれだけ分厚いブロックですし、食感もいいだけに、迫まりくる力の不足を感じます。
なにせ、初めてのネロパルマ豚。
本当はもっとおいしい肉が調理のせいでこの程度に落ちてしまったのか、それとも、肉のおいしさが元からこんなものなのか、ネロパルマ素人の私には、どちらとも判別がつきません。
豚の種類は違いますが、私の場合、やはりパルマ名産のプロシュートを食べたときにも、必ず物足りなさを感じます。あれだけ評判の高い生ハムなのに、感激したことがありません。それと同様に、ネロパルマ豚も自分の好みではないということでしょうか。
脂身の多いブロックのほうが、味は濃厚でした。そちらばかり食べるのは脂っこすぎますが、脂身の旨味が肉にも回って、肉らしいおいしさがあります。
皿の底には、しょっぱいながらも、コクの深い肉汁が残っていました。そのおいしさから想像すれば、ネロパルマ豚はもっと豊かな旨味を隠し持っているのだろうと思えました。
ネロパルマ豚にもまして首をかしげたのが、紫芋でした。肉を挟んで左右に合計4個、配置されています。これが、水気がすっかり飛んでしまって、堅いこと、堅いこと。しかも、これといった味がついていません。紫芋を素焼きするのに1時間を要したのかと思えるほどでした。
ドルチェには栗のタルトを頼みました。
ドルチェもシェフがこしらえているとのことで、何から何まで一人でやるのは大変そうです。
「働きづめでしょ?」と尋ねたら、仕込みのスタッフがいて、手伝ってもらっているとのことでした。開店までに仕込みのスタッフは去り、注文に対する調理を一人で受け持っているそうです。
そんなシェフの苦労を思いやってか、食べログには、次のような口コミがありました。
本当においしいものを食べたいのなら、いくらお店が繁盛しても、「おいしいものを食べたいです、・・・が食べたいです」と、前もってシェフにちゃんとお願いして、シェフの都合に自分の都合をあわせればいいのだから。シェフの都合が整うまで、じっくり待てばいいのだから。
シェフの大ファンからの投稿なのでしょう。
こういう熱烈ファンばかりなら店も楽ですが、繁盛する店では、おいしいものがリズムよく出てきます。ラ・ベットラの落合務シェフが、NHKのテレビ番組で経営の要点を聞かれたときも、リズムの大切さを説いていました。
いくらシェフが腕をふるっても、全体の流れがよくないと、おいしさが損なわれます。世の名シェフたちは、そこまで準備周到です。
ジビエ料理を、不定期ながらも、メニューに加えたり、ボトルワインを3000円と3800円の価格帯で数多く揃えたり、きわめて意欲的な店だと思いました。ジビエ料理は、遅くとも1週間前までに、予約しておいていただきたいとのことでした。
店内にはキジの尾羽根が空のワインボトルに挿してあったり、食材にされた後の子熊の毛皮がぶら下がっていたり。
店内は、カウンター席とテーブル席の二刀流。私は単独客なので、カウンター席を選んだ。多くの飾り物をもう少し片付けると、スッキリ空間に変身できそう。
食べログで、ひとり当たりが使った金額を見ますと、夜ですら3000~3999円になっています。今回、私は、酒類を飲みませんでしたが、6500円くらいの支払いでした。食べログの一人当たり単価からは、おいしいイタリアンでワインをゆったり楽しむといった大人の客を掌握できていないもどかしさがうかがいしれます。
地方都市の盛り場に店を構えた宿命みたいなもので、居酒屋機能も提供できないと商売が成り立ちません。難しいところです。「うちはBar(バール)です」と、店自身が立ち位置を宣言してしまうことが多いようです。
Barならば、作りおきの小皿料理を主流に出来ます。ところが、オステリアタイキは、Bar的形態を前面に押し出しながら、料理は本格派というスタイルでした。どこでどう背筋を伸ばすか、本当に難しいスタイルです。
オステリアタイキのブログや、FACEBOOKを見ました。
料理写真を携帯電話で撮影していたり、メニューの説明が稚拙だったりで、限られた友達向けの印象を否めませんでした。
あのブログやFACEBOOKを見る限りにおいては、店の真摯な姿勢が伝わらず、ずいぶん損をしていると思います。
料理は丁寧ですし、野菜は契約農家から仕入れていますし、何かやりたいという野心や、独自のスタイルを貫きたいという情熱も感じました。接客も、若いスタッフがフレンドリーで、いい感じです。
高岡市は、人口17万人ですから、シェフが腰を据えて本気を貫けば、おいしいもの好きの客がさらに集まってくると思います。いまはシェフ自身がやり甲斐不足に悩んでいるのではないか、Barと本格派のアブハチとらずスタイルに流されすぎているのではないかと、そんな風にも思いました。
あまりイタリアン店とは思えない外観。御旅屋町、高岡大和デパートの真裏の小路に面している。
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