京都の街中はほとんど雪が降らなかったのか、北山通からさらに北上し、宝が池公園を過ぎても、雪の積もった様子はありませんでした。
八瀬に差し掛かったあたりから、高野川沿いの景色に、少しずつ雪が混じり始めました。
朝のうちがきれいでしたよ。
休憩所の女の人がそう言いました。陽が照っていたそうです。
私が訪れた時間帯は、雲の切れ間から光が射しても、せいぜい数秒。ハッとするような光景に出会えるはずが、雪の雑木林歩きくらいの風情にとどまってしまったのが残念です。
その休憩所は、参拝客にしそ茶をふるまっていました。大原の紫蘇は、しば漬けのみならず、ジュース、お茶、お酒にも形を変えています。
気温1度か、2度か、3度か。冷え切った身体に熱いしそ茶。全身の血流が再び勢いを取り戻したかのごとくに感じられます。
休憩所の女性が、聞いてもいないのにしゃべり始めたのは、お茶のセールストークでした。なるほど、ただの親切でお茶を飲ませてくれるはずがありません。
お茶は3種類。しそ茶、うめ茶、抹茶とありますが、いずれも、金色不動茶とネーミングされていて、金箔入りです。金箔が、金色不動明王像(重要文化財)ゆかりのお茶であることを言い表しています。
三千院の秘仏を商品名に流用できるのも、これが京都大原三千院オリジナルブランドのお茶だからです。三千院の外では売っていない。インターネット通販もやっていない。買いたければここに来るしかない。
そう言われたら、買いたくなりますわなあ。
うめ茶でお粥をこしらえたらおいしいというセールストークにも背を押されました。20gで800円は決して安くはないけれど、雪の三千院に来たしるしです。
大根焚きの日も来てみてください。たいてい、こういう風に雪ですから。
お釣りを渡しながら、休憩所の女性が言いました。大根焚きは2月8日~11日。3連休です。
寒いさなか、しかも雪の日とあって、参拝客はきわめてまばらでした。いつもの三千院からいえば、ゼロに等しい数です。
そんななか、フランス人女性客がいました。私と同じくらいの年代です。フランスにはこんなにきれいな色の眼鏡フレームがあるのかと、つい何度も見てしまいました。フレームの色彩はペールブルーです。
きれいな眼鏡だと伝えたいのですが、フランス語なんて勉強したことがありません。なんて言えばよかったのでしょうか。
トレビアン! シャネル・ド・エルメス。
そんなわけないやろ。
何をきれいと感じるかに国境はないのでしょう。その女性も、美は細部に宿るといわんばかりに、雪の白さに映える椿や南天の赤さに魅入っていました。
年齢を感じさせないそのフランス美魔女と雪の三千院の取り合わせが、私にはいちばん美しく感じられました。けれども、貴女の美しさを写真にしたいと、フランス語ではどう言うのか?
雪の白さ・・・白いは、シャルドネ。そら、白ワインやろ。
三千院を出て、栗ぜんざいを食べました。さっき休憩所で飲ませてもらったしそ茶のポカポカ効果は、とっくに切れていました。
店の中は、三千院で見かけた参拝客ばかりです。なにか温かいものが欲しい気持ちは誰もが同じで、どのテーブルからも、うどんやそばが湯気を上げていました。
さっきのフランス人女性は、そばを食べていました。お箸の使い方がまったく下手糞で、おそらく旅行客なんだろうと思いました。ペールブルーの眼鏡フレームに囲まれたレンズが、蕎麦の湯気で曇っていました。
この日は、表参道を行かず、ショートカットのできる駐車場から歩きました。三千院から流れ下りてくる服部川沿いの小径です。表参道に比べれば、土産物店も何もなくて、あるのは、ごく普通の大原の里景色です。当たり前に積もって、当たり前に融け始めた雪を愛でつつ歩きました。
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