大人気のトンカツ店。12時台に店の前を通りかかると、行列ができていました。
済生会病院周辺で用事を済ませた2時前、行列はなくなっていました。それでもまだ店内は満席に近い状態でした。幸いにも私は一人でカウンター席だから座れました。
特選ロースとご飯(中)を注文しました。
カウンター席はキッチンに面していて、調理の一部始終が見えます。
オーナーシェフは50歳ほどで、ちょっとお腹の出た体型で動き回る姿がいかにも洋食店らしく、キッチンによく似合っていました。
オーダーのメモをチラリと確かめてそれに合わせた肉を取り出し、1枚分の大きさに切り分けていきます。その肉を、肉たたきでトントントン。さらに、出刃のようなサイズで刀身が三角形をした短い包丁でも肉面を叩き、スジ切りを入れます。
その肉をさっと玉子にくぐらせてから、バットのなかのパン粉の上に移し裏と表に衣をまぶします。掌でポンポンポンと柔らかく衣を押し付けて、そして油のなかへ滑り込ませます。
揚げるための調理台はステンレス製で、ちょうど流し台のような大きさです。そこに油がたっぷりと入っています。そのなかで2分か2分半ほど。オーダーが多いので次から次へと肉が投入され、何枚ものトンカツが同時進行で仕上がっていきます。
油から取り出したらしばし休ませつつ、油切り。遠目にもパン粉の立つ姿が鮮明です。きっとパリパリの食感に違いありません。油切りは揚げ時間よりも少し長めのように感じられました。3分ほどだったと思います。
シェフがトンカツをどんどん仕上げていく間に、未来の巨匠とも言うべき若いスタッフがトマトやキャベツを準備しています。トマトをただ切るだけではなくて、へた側の断面を面取りしていく丁寧さが印象的でした。
何枚も同時に油切りを終えたトンカツ。見かけがほとんど同じだというのに、シェフは衣の中をちゃんと把握しています。間違えません。たまに間違えるかもしれませんが、食べる客のほうが間違いに気づくはずもありません。10枚ほどのトンカツに若巨匠があっという間に包丁を入れ、これまた間違いなく皿に盛り付けます。
口に入れた直後はどこにもありそうなトンカツの味でした。噛み始めてからが本当の味です。肉と衣が口の中でひとつになったとき、「これはおいしい!さすが人気店」と分かります。脂身の部分ではさらにおいしさが濃くなります。衣は薄く、肉との間に寸分の隙間も生ぜず、口当たりは軽くてサッパリしています。
トンカツというのはそもそもがおいしい食べ物で、どこへ行ってもおいしさに大きな違いがないように思います。ここのトンカツは、そのレベルをもちろん十分に満たした上に、さらに1割か2割ほど味に深みがあります。深みがあるのに全体はとてもすっきりしています。他店との違いを適切な言葉にするのが難しくて、食べてみるより他に知る手立てがないとしか言えません。
シェフが、肉をくぐらせる玉子をとき始めました。
使う玉子は48個。いまさっき、若巨匠がたった1分半ほどで割ってしまいました。左手にボウル、右手に玉子を握って、コンとボウルの側面に打ち付けてボウルの真上でパンと開ける。コン、パッ。コン、パッ。鮮やかなお手並みでした。
この記事を読んだ妻お龍が、おとうさんはどうして48個と分かったのか、1個ずつ数えてたのかと質問してきました。そうやないです。玉子が割れない包装パックに12列×4行で並んでいたのです。それが空になったのです。
その48個の玉子のなかに、シェフが日本酒を投入します。加茂泉の1・8リットル入り紙パック。未使用です。キャップをねじ切り、ドバドバドバドバ。どれだけ入れるねん!
たしか加茂泉だったと思います。広島の名酒。もし加茂和泉でしたら、たぶん京都の松尾大社あたりの産で、また別の酒になります。
玉子と酒が入ったら、シェフの手が上下方向に動き始めました。あたかも縦切りを加えるかのような動作で、玉子をとくというよりも大まかに切るといった感じです。
新たなとき玉子にまた新たなトンカツをくぐらせる。もうじきランチタイム時間帯終了の2時だというのに新しい客が入ってきて、注文はまだまだ続いていました。
レジのカレンダーには大手製薬メーカーの名前がいくつも並んでいました。おそらく、製品説明会のときの弁当をこの店で予約しているのだと思います。おいしい店の場合、お医者さん側からどこどこの弁当にしてくれとリクエストが入ります。「ますいや」もその例にもれないものと思われます。
弁当に限らず、普通にテイク・アウトも可能でした。
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