ニャーオ、ニャーオと、さっきから猫の鳴き声が聞こえます。
猫は鳴きながら店の周りを歩いているらしくて、鳴き声の方向が移っていきます。
どこの猫ですか?
うちの猫です。
紅茶専門店アンナマリアのオーナーご夫妻は猫好きご夫妻でした。
私たちが店に入ったのは、18時の閉店まであと40分くらいの時間帯でした。
それと相前後して、猫ちゃんの体内時計が閉店間近をかぎつけ、ごはんが欲しいのか家に入りたいのか、そのどちらかをアピールし始めたのだと思います。
観光地嵐山の性格上、普段は夕方5時を過ぎれば客が来ることも少なく、ご主人様が暇になるのでしょう。なのに、今日は私たちがたまたま店に入ってしまったせいで、猫ちゃんの算段が狂いました。
私はダージリンを頼みました。
ファースト・フラッシュ(春摘み)ですとのことでした。
紅茶に詳しくない私の場合、「こんなに薄いけどええの?」というのが正直な感想で、それが春摘み特有のよさであることを知りませんでした。薄いやつを頼んで損したような心境になっていました。
「ファーストフラッシュだからよ」と妻お龍が言います。
ファーストフラッシュのダージリンは、湯にほのかな香りと色をつけるだけで、それ以上をはにかむ少女でした。味や香りを追いすぎると少女のほうから逃げていきます。
2杯目はだいぶ色も味も濃くなりました。おまえも言うようになったなあ、そうか、もう高校生かという気分でした。
1杯め。薄さにも驚きましたが、色の美しさにも驚きました。
2杯めでだいぶ紅茶らしくなりました。お湯だけのポットも持ってきてくれますので、3杯でも4杯でも飲むことができます。3杯め、4杯めになっても、葉がよく粘って破綻せず、決して出がらしになりませんでした。
妻お龍。味と香りはなくなりましたが、ヤカンで煮出したら渋さと苦さはまだ出るでしょう。
アンナマリアはいろいろな雑誌で紹介されているようです。
掲載雑誌が店内に飾られていました。
紹介記事の豊富さに比して、食べログでの評価は、サービス、雰囲気、コストパフォーマンスのいずれもが3.00を超えていません。その反面、味については3.51です。
この評価は店の実像をよく表していると思います。3.00とか3.51といった数値の妥当性はさておき、評価項目間の優劣はこんなバランスだと思います。
たとえば、「紅葉の嵐山で憩う」というタイトルの紹介記事もありますが、食べログの口コミを見ていますと、観光シーズンは店が混みあう様子です。紹介記事の内容がどうあれ、実際のところは憩うといった雰囲気ではなさそうです。
店は、飲食店専用の建物ではありません。日本家屋の表半分を使った紅茶専門店ですから、その手狭さはいかんともいしがたく、混みあえば混みあうほど居心地が犠牲になることでしょう。
けれども、どんなに混みあう日でも紅茶はしっかり手抜きなしというのが店の強い意志なのだと思います。客の数に負けないだけのティーポット、カップ、ソーサーがキッチンに並べられていました。
紅茶の値段は、850円から1350円です。3杯め、4杯めまで飲めるクオリティーであることを思えば、一概に高いとは言えません。
ただ、3杯め、4杯めまでゆったり楽しめるサービス内容か、雰囲気かと厳しく問われれば、コストパフォーマンスの評価がどうしても伸び悩むのだと思います。
帰り道、嵐電嵐山駅近くのLONDON BOOKSで古本を買いました。店先のワゴンには1冊100円の本ばかりが積んでありました。
物色すれば、年代を問わず有用な本もあります。
気温が20度近くまで下がった夕暮れ。100円の古本で読書の秋が到来です。
0 件のコメント:
コメントを投稿