「穆然(ぼくねん)」という名のジャズスポットに出会いました。
山椒は小粒でぴりりと辛いのが金沢らしさだと、前から思っていました。
質を大切にする店があちこちに点在し、キラリ、キラリと異彩を放つ。
その点で、穆然は実に金沢らしい店でした。
穆然のホームページはhttp://www.ebokunen.com/です。
カレーランチ750円に戸惑う夜
こんなところでジャズスポット?
お堀と石垣と月だけが道連れの散歩だっただけに、予測外でした。
店は、「尾山町Zig」と名付けられた敷地内にありました。土塀に囲まれていて、塀越しに松も見えます。
入り口に近づくと、庭を照らす灯りがついでに路地も照らしていました。お金持ちのお屋敷が夜遅くの訪問者を待ち続けているかのごとくです。
ほんとに入っていってもかまわない場所なのかなと、しばし立ち止まって考えました。
私をいちばん迷わせたのが、看板に書かれた「カレーランチ750円」の文字でした。カレーランチ750円の店がこのような品格あふれる場所にあるのか?いや、あっていいのか?
どやさ?、どやさ?で写した写真が以下の通りです。
カレーランチ750円・・・そんな店がここにあるとは思えず。
内側をきちんと確かめるべくのぞいてみることに。
たしかに、この和風ガーデンのなかにあるらしい。
不審者のごとく、この庭を行ったり来たりした。
録音スタジオ仕様のスピーカーがお出迎え
迎えてくれたのは、宮崎駿アニメの主人公に似たママ。ナウシカを彷彿とさせる表情。
しかし、ママの美貌に見とれる暇もなく、こっちを見んかいと主張してきたのが特大のスピーカーでした。
洋服ダンスを真っ二つに切ったんですかというくらいに大きなスピーカーです。
そのスピーカーはJBL4350Bといって、プロ中のプロ仕様。レコードやCDの制作現場の高度なニーズを満たすために生まれました。
幅1.2m、高さ90cm、奥行き50cm、重さが120kg。いったいこれは、ヘビー級なのか、無差別級なのか。
120kgのスピーカー2台がどんと居座るその下段で、ずらりと並んだグラス類がきらめいています。さらにその下の段にはウイスキーのボトル。
これだけのガラスたちが、特大スピーカーの震動を受けて微動だにせず、ぴたりと静寂を保っています。手抜きの安普請ではこうはいかないでしょう。
写真の右上に見えるのが重量120kgという無差別級スピーカー。
そこまでやっても(あるいはそこまでやるからなのか)、日によってオーディオ機器の調子がとてもわるいと書いていてあります。
けれども、この夜はラッキーだったのでしょうか。記事冒頭のレコードで歌声が流れ始めた途端にぞくっときました。アーネスティン・アンダーソンという往年の名女性ボーカリストが自分のためだけに歌ってくれているようでした。
若いお客さんだとレコードが回っているだけで珍しがる人もいるとママが言います。
いまや、配信向けの音質で音源を作る時代です。かたや、レコードがある限りは、それを最高の音質で聞こうとする人がいる。
電車の中でもどこでも音楽を聞きたいというのも、よく考えてみれば贅沢な欲望です。しかし、レコードに録音された無音部分までも最高の音質で聞きたがるなんて、これはよく考えるまでもなく贅沢な欲望です。
京都の方ならぜひ上賀茂へ
京都ならばぜひと、ママが一枚のチラシを差し出しました。
10月13日・14日、夜の上賀茂神社で開催されるライブです。
これを主催するのが京都市出町柳駅前のLUSH LIFE。穆年がLUSH LIFEを尊敬してやまないという背景もあって、上賀茂ライブを熱心に奨められました。
出演するランディ・ウェストンというピアニストは、多くのジャズ・ファンから尊敬される存在だそうです。なんと86歳にして現役。しかし、年齢を考えたら次に生演奏を聞ける機会がないかもしれないと、ママが言います。
ランディーと組むのはサックスのビリー・ハーパー(69歳)。
マスターが言うには、ランディー自身が上賀茂神社をたいそう気に入っていて、だから来日を厭わないそうです。
このライブにはマイクを一切使わず、正真正銘の生音でやるとのことです。ランディーが弾くピアノは1台2000万円だそうです。その周りの座布団席に客が座るのだそうです。
LUSH LIFEのホームページはhttp://www.lushlife.jp/です。
出町柳駅前のLUSH LIFE。穆然と打って変わって庶民的。
以前、ここにはつる幸があった
私が金沢に住んでいた頃、グルメのお医者さんに何度か連れてもらいました。とびっきりおいしかったのをいまでも覚えています。
穆然の開店以前、ここにあったのはその「つる幸」だとママが言います。
あれ? ほんま? 俺が金沢にいた当時はちがう場所やったと思いますけど・・・
あれから「つる幸」がいったん移転したそうです。その移転先がこの場所だったとママが説明してくれました。なるほど、和風庭園と共存するジャズ・スポットという謎がこれで解けました。
穆年と敷地を共有するのが、イタリアンレストランの「Corsaro(コルサロ)」です。ランチタイムなし夜だけという余裕の営業スタイルだけに、気になるところです。
私は、ハーパーの水割2杯とコーヒー1杯を飲みました。お勘定が2450円でした。
豪奢なオーディオシステムのみならず、かつて「つる幸」があった場所ですから、この安さは意外です。
オーディオといえばカラオケしかないスナックですら、もうちょっとするでしょう。
ただひとつの後悔は、ナウシカ似のママにどれくらいなれなれしくしていいのか帰るまでわからず、関西弁とですます調の混じった変な話し方になってしまったことです。
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