2014-08-17

豆腐ちくわとアゴちくわ 鳥取県の特産品をもらった


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 鳥取県に帰省中の知り合いから、豆腐ちくわとアゴちくわの詰め合わせが送られてきました。
 鳥取県はちくわ王国。鳥取市の「ちくわ」消費量は断トツの日本一です。そのちくわ王国から届きました。

 

20140816-IMG_8818近鉄百貨店で練り物を買ってきて鳥取のちくわと共に食べた。アクを感じさせるツルムラサキのおひたしもわさび醤油によく合った。奥に見えるのは大阪の圧し寿司。

 鳥取名産のちくわを送ってくれたのは、私の北陸担当を引き継いでくれた例の美女です。

 私たち他府県人の多くは鳥取土産といえば梨だと思い込んでます。私は幸水の甘いやつを土産にくれるんだろうなと想像していました。しかし、美女は、アゴのちくわと豆腐のちくわを送るつもりだといいます。このとき初めてちくわが鳥取の名物だと知りました。

 総務省が全国都道府県庁所在地を対象に行っている家計調査(2013年)を見ても、鳥取はやはり梨とちくわであることが分かります。このふたつへの年間支出金額は鳥取市が1位となっていて、梨が7817円、ちくわが3688円です(下のグラフ)。


鳥取市はちくわと梨への出費が多い
総務省のサイトから転載 統計局ホームページ/家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(平成23年(2011年)~25年(2013年)平均)

 しかし、ちょっと淋しいことに、日本一を誇るこの金額が年を追って下落傾向にあります。2000年時点では梨が9088円、ちくわが5270円でした。14年間のうちに梨が13%、ちくわが31%ほど減った計算になります。地産地消の度合いが明らかに薄れています。
 それと同じ14年間に、鳥取県の人口が3.5万人(約6%)ほど減った上、高齢化率が22%から27%に増加しました。こうした人口動態と地産地消の衰退が無縁だとは思えず、鳥取県の梨とちくわだけをとってみても日本のかかえる課題が浮き彫りになります。

 鳥取県が全国の先をいくのは人口減少と高齢化だけーーーその傾向が顕著になり始めた2000年頃、あの美女は故郷を離れました。
 今回は久しぶりの里帰り。どんなに遠くにあろうともちくわを愛する鳥取スピリッツを見失なわなかった彼女が、梨を欲しがる私にちくわを送ってきてくれたと、こういう次第であります。

 引き継ぎ後も仕事や人間関係の相談にのってもらっているお礼だと彼女は言います。しかし、彼女の深刻な悩みも、子供時代にちくわを食いすぎたせいではないかと思える節があります。実力に不足はないし、もっと大きな視野に立てば自信をもてるケースが多々あるわけですが、どうもちくわの狭い穴から問題を見ようとするクセがあっていけません。

 で、その彼女が送ってくれたのは、老舗中の老舗である「ちむら」の豆腐ちくわでした。

 ちくわの起源は千年以上前に遡ることができるそうですが、魚のすり身を原料にすることから、長い間にわたって高級品扱いだったそうです。とくに鳥取地方は江戸末期になっても海の漁獲高がまだまだ低かったために、魚のすり身だけでちくわを製造するような華美は許されなかったといいます。反面、大豆が豊富な土地でした。そこで、魚のすり身に豆腐を加えてボリュームを増やす製造法が鳥取藩主によって奨励されたそうで、これが豆腐ちくわのはじまりだといいます。

 

 「ちむら」が豆腐ちくわの製造を始めたのは慶応元年だと言われています。店の記録にも残されている史実だそうで、もっとも古くから商品化を推し進めてきた店、ちくわの食文化を担ってきた店だと言っても過言ではありません。
 この店の原料比率は木綿豆腐7に対して白身魚3の割合になっています。老舗が守り続けるこの原料比率が自ずと地域全体のスタンダードに位置づけられているようですが、他にも5対5や6対4などで独自の味を目指す店があります。

 いっぽうのアゴちくわは、鳥取県全体というよりも県東部に限定された特産品といった色合いが濃いようです。県中部や西部、すなわち島根県に近づくに連れてアゴちくわの一般性は低下し、「アゴ野焼き」という大型ちくわが一般化してくるといいます。アゴ野焼きのことは島根県出雲地方に嫁いだ従姉妹もよく知っていましたから、鳥取・島根両県にまたがる名物なんでしょう。また全国的な知名度においてもアゴちくわを上回っています。



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 ちなみに、アゴというのはトビウオのことです。トビウオをアゴと呼ぶ地域は長崎・福岡・島根・鳥取・丹後・能登など西日本の日本海側に固まっています。こうした地域のアゴは夏の歳時記的食材でもあります。何年か前の夏、丹後の喫茶店でランチにアゴの刺身がついてきたときには、皿の上で小型戦闘機のように胸ビレを広げる姿に小さな感嘆を覚えました。

 トビウオは鳥取県の県魚になっています。その県魚をふんだんに用いたのがアゴちくわとアゴ野焼きですが、アゴちくわの場合はすり身と塩だけで素材本来のおいしさを生かすことが大切にされるいっぽう、アゴ野焼きのほうはそこにさらに酒や味醂を加えて味を作りこんでいく。こういう違いがあるそうです。
 そしてまた、アゴちくわの外見がどこから見てもちくわであるのに対して、アゴ野焼きは配管用パイプのように太くて長い。そんな外観の違いからも両者は似て非なるものなんだと、出雲に嫁いだ従姉妹は言っていました。

 さて、味です。

 豆腐ちくわはフニャフニャした感じで、アゴちくわは固くて噛むのに時間がかかるーーー美女はそう言っていました。

 ところが、食べてみたら、フニャフニャだと聞いた豆腐ちくわですら、材料をぎゅっと押し詰めた食感満点で、弾力性と歯応えに富んでいます。固太りの赤ちゃんというのか、なかなかのプリプリ感で、豆腐7割という比率が信じられません。ちくわ王国育ちの美女はこれをフニャフニャと評するか。ひょっとしておまえはアロワナか。

 うちの妻お龍は、じわっとしみ出てくる豆腐の風味がとても気に入った様子です。お龍は、神奈川県大磯という海の町で育ったからか、練り物が大好きです。飾りっ気のない豆腐ちくわの味が子供時代の練り物に似通っているのかもしれません。
 原材料が魚白身と豆腐ですから、低カロリーにして高エネルギーの食べ物であることは理屈でも納得できます。と同時に、見かけの白さや、その白さに見合った食感や、食感に見合った風味など、豆腐ちくわが健康によさそうなことを直感的に把握することができます。添加物たっぷりで水産加工品然とした練り物が多いなか、お龍はそんなところでも魅力を感じたようです。

 アゴちくわは野性味にあふれていました。焦げ目で縮れた表皮は老漁師の手の甲のようです。

 いただきます!

 地場産アゴのすり身と塩だけを練り込んで焼いた味はシンプルかつストレート。おいしいと思う奴だけがおいしいと思えばいいと言ってるようでした。トビウオの無愛想な顔つきと海面を飛ぶ筋力を思い浮かべました。

 あの美女はアゴちくわはとにかく固いと言いました。その表現が当たっていないわけではありませんが、その固さをもう少し伝わりやすく言い直せば、竹の棒のままかぶりつき噛みちぎるおもしろさを伴う固さです。食ってやるという気分にさせる固さです。竹の棒に前歯が当たる音。竹の棒に前歯を沿わせてちくわを削り取るときに感じる竹の香り。アゴちくわも五感に訴えてきます。

 美女の実家ではアゴちくわで出汁をとるというのですが、1本600円もすることを思うとそこまで思い切れません。ただ、味が単調すぎる点とひとりで1本は多すぎる点を考慮すると、出汁という使い道は贅沢ながらもありだと思いました。

 あ~夏休み。私のお盆休みは母親の入院であっという間に過ぎました。ちくわの話を書いたかと思えば明日からは仕事が始まります。
 百日紅の紅さと高校野球の進み方が去り行く夏のシンボルです。

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