2015-01-28

日野城址と八幡堀 るろうに剣心ロケ地(滋賀県 日野町・近江八幡市)

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 「るろうに剣心」の”京都大火編”と”伝説の最期編”のロケ地には滋賀県各地が数多く登場します。”伝説の最期編”で緋村剣心(佐藤健)と四乃森蒼紫(伊勢谷友介)の対決場面となった日野城址に行ってみました。
 写真は、蒲生氏郷が日野城主だった時代をいまに伝える石垣跡です。その石垣のもたらす視覚的なトンネル効果が一騎打ち開始のシーンで使われています。

 

忘れ去られた城跡から120億円を稼ぐ映画が・・・



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 プワ~ン。少し間の抜けた警笛を鳴らして近江鉄道が走っていきます。
 1時間に1本くらいの電車を日野駅で降ります。駅がロケ地であってもいいくらいに時代がかった駅舎。私の子供時代から何も変わっていません。

 数ある滋賀県内ロケ地のうち、園城寺(三井寺)、延暦寺(飯室谷)、日吉大社、彦根城、八幡掘といった撮影スポットはそれぞれ観光地のなかにありますし、交通の便もさほど悪くありません。それに比して日野城址はハンパない不便さと地味さです。ファン心理だけではなかなかここまで来る気持ちになれないことでしょう。日野駅で近江鉄道を降りても、さらにそこから5km余り。タクシーで10~15分、バスで20分ほどかかります。

 日野城址は、戦国武将蒲生氏郷の居城でした。氏郷が伊勢に移って以降は廃城になりました。いま残っているのは、当時の石垣の一部と江戸時代の神社だけです。石垣に用いられている石は、江戸時代の立派な城とは大いに趣を異にし、漬物石のサイズが積み重なっています。おそらく日野川の河原から集められたのだと思われます。

 滋賀県は城跡の多い県です。京へ向かう交通の要衝でしたから、攻めたい者と守りたい者がぶつかり合う地域でした。名もない城跡があちこちに残るなか、中野城址と呼ばれる日野城址も、普段は忘れられている存在です。城主だった蒲生氏郷がよく知られている割には城がさほど知られていません。どんなきっかけなのか、よくまあロケ地に選定されたと思います。

 マイナビニュース(2014年10月17日)は、「るろ剣」の興行収入が120億円を超えたと、以下のように報じています。

現在公開中の『るろうに剣心 京都大火編』の観客動員数が公開76日間で401万1,497人に、興行収入が51億8,073万3,800円に達し、『るろうに剣心 伝説の最期編』は公開33日間で観客動員数303万5,533人、興行収入が38億7,567万2,300円に。2012年公開『るろうに剣心』(興行収入30億円)と合わせると、3作の累計興行収入が120億円を突破した。

 読み流せば「すごいね」だけのニュースですが、「あの日野城址で撮影した映画?」と気づき直したら驚愕もひとしおです。滋賀県民ですら忘れている城跡ですからね。なのに100億円!それだけの作品が目をつけたロケ地と受け止め直せば、この日野町にはえらいタイヘンなことが起きたわけです。

 私が小学生の頃に、日野城跡に隣接して日野川ダムが完成しました。当時からヘラ鮒釣りの名所でしたが、それはいまも変わっていません。昔はいまほど公園化されていなくて、山のなかに入って行くと現れるダムでした。決闘を制した緋村剣心が歩き去るのがこのダム方向です。


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映画のなかではまるで別の場所

 日野城址でのシーンは、翁(田中 泯)が満身創痍の身体を杖で支えながら石段を下りてくるところから始まります。下の写真でいえば、重なる鳥居を背後にした石段です。
 石段を下りきったところに小さな橋があります。映画のなかでは、この橋の手すりに竹が被せられています。その手すりに身体をあずけて口から血を流す翁、それを支える巻町操(土屋太鳳)。


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 現実の景色には映画で見る迫力はまったくありません。何度も映画と見比べました。見比べれば見比べるほど、映像の力に感服するばかりです。

 シーン全体の色合いをデジタル技術でグリーンっぽく変え、全体に霞がかかったような効果を加え、広角レンズによる寄りの画像効果を生かし、見せたくないものは露出をとばして真っ白な背景に加工し、しかも、落ち葉一枚に至るまで散り方を作りこみ・・・
 まずは風景だけで何かを語れるレベルに持って行っておいて、そこに俳優さんの迫真の演技が乗る。計算され尽くした制作によって現実離れした世界がこの実在の景色から生まれます。

 こうした作りこみは東映太秦映画村のオープンセットでも同様です。”京都大火編”では太秦映画村での殺陣シーンがふんだんに盛り込まれていますが、あのオープンセットが普段とはまったく別の表情を見せています。

 ロケとかセットという言い方であっても、やっぱりこれは舞台の一種だなと思いました。俳優さんには舞台が必要ですし、舞台には俳優さんが必要です。引き立て合うという言葉の意味を教わった気がしました。


妻お龍を剣心に見立てて

 宿敵緋村剣心が現れ、四乃森蒼紫が橋の上からそれを見下ろすシーン。鳥居の前にうちの妻お龍を立たせて再現してみました。

ーーーわあ、これ私でしょ。すごいね。健クンと同じ場所で写ってる。ねえ、なんかポーズも似ていない?

 お龍はこの写真を見てえらく感激しています。

 映画のなかでは画面右側の池の陰から霧がかかっています。人工の霧なのか、日野川ダムの湖面から自然と流れてきたものなのかは分かりませんが、辺り一帯の空気が霧でにじんでいます。その空気で緋村剣心の立つ場所を包み、なんとも時間帯の設定が不詳。あいまいだからこそ映像に入り込めるわけで、観客を引きずり込む幻想性。すなわちそれが作品ということです。


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ロケ現場で俳優やスタッフのすごさを知る

 二人が激しくしのぎを削り合うシーンは主に下の写真の空間で撮影されたものと思われます。強い者どうしですからなかなか決着がつきません。


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 この狭い場所のいったいどこにカメラを置いたことやら。カメラの位置を変えては、あっちから映したり、こっちから映したり。短い画面の切り替えですとワンカット0.5~1秒くらいです。編集時に再生速度を上げてスピード感を与えていると思いますが、それでも元のカットが2~3秒という局面も少なくなかったように思えます。
 形相を変えて斬りかかっていくアップと刀がぶつかり合ったときのショットを別撮りするなど、短いカットをいっぱい積み重ねて迫力満点の決闘シーンが生み出されています。

 俳優さんたちは限られた画角からはみ出してしまってはいけないわけですし、そのためには少しの距離移動を大きな演技に見せる演技力が求められます。名演技というのは何も顔の表情やセリフの抑揚だけではないんですねえ。体力も運動神経も必要ですし、所作が洗練されてなくてはならないし、さらには美男美女だらけ。俳優さんたちの世界は特殊技能集団です。


八幡掘・・・剣心と薫が別れる名場面



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 こちらは近江八幡市の八幡掘。”京都大火編”では、緋村剣心と神谷薫(武井咲)が別れるシーンに使われました。明治維新の東京のどこかという設定です。

 剣心は決死の覚悟で京へ旅立ちます。薫は行って欲しくない。死なせたくない。薫を抱き寄せる剣心。感謝と別離の言葉を告げます。

ーーー いやあ、そら二人ともめちゃ可愛かったですよ。いろいろな俳優さんが来はりますけど、いままで見たなかではあの二人がいちばん可愛かったんとちがいますか。顔が小さいんですよ、ほんまに小さい。

 と、遠久邑(おくむら)の女性スタッフが話してくれました。遠久邑は、この八幡掘の石畳に店を構える佃煮屋さん。琵琶湖の特産品である鮎の他に、モロコ、ヒガイ、ハスなど湖産淡水魚の甘辛煮が豊富に揃っています。鮒寿司もあります。レジの後ろには佐藤健さんと武井咲さんのサインが飾ってありました。


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 八幡掘のシーンを見ますと、大道具、小道具にそれほど手が加えられていません。水面に映像処理を施して水の汚さをごまかしてありますが、それ以外はだいたい実物通りです。映す範囲を絞り込んでホンモノらしく見せる手法は、ここでロケを行う様々な時代劇に共通しています。見る度に景色の切り取り方に感心し、自分でここの写真を撮るときの参考にさせてもらっています。


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 二人の別れの名場面が収録されたのは赤い楕円の範囲だと思います。板塀の前で剣心を待つ薫。石畳の階段を下りてくる剣心。堀の縁に沿って並ぶ桜の木をうまく画面に収めながら、重苦しくなり過ぎない演出で二人の心が描かれています。剣心が薫を抱き寄せるシーンは下の写真のような感じです。映画のなかでは石畳沿いの照明灯を明治維新の灯籠に変えてあります。


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ロケ地も儲けなくちゃね

 「るろうに剣心」のロケ地になった滋賀県は、「ロケーションジャパン大賞」の2014年グランプリに選ばれました。京都新聞によりますと「地域の活性化に最も貢献した作品とロケ地」としての栄誉だそうで、情報誌「ロケーションジャパン」が選考したものだそうです。2013年は「あまちゃん」の岩手県久慈市が受賞しています。

 同じく京都新聞によりますと、「同誌の読者が最も行きたくなったロケ地として挙げた度合いを表す『支持率』、自治体や地元団体がどれくらい撮影に協力したかを示す『ロケ支援度』など4指標で審査。るろうに剣心と滋賀県が満点500ポイント中、最多の406ポイントを得た」といいます。

 はじめのほうでも言いましたが、滋賀県民にはごく当たり前で見慣れた景色であり、実物だけ見る分にはまったく金を払わなくてもいい景色が、100億円超の興行収入につながる。これは、なんといっていいのかわからない不思議さです。

 しかし、なにも映画会社や監督や俳優だけにガッポリ儲けさせておくことはありません。ロケ地も自分たちのためになるように、滋賀県みたいに観光客誘致材料に活用するなど、せっせと動かなくちゃ損です。その模範が「ロケーションジャパン大賞」のグランプリだと思えば、さすが近江商人。三方良しの土地柄。映画関係者・観光客・地元がこぞってハッピーです。

 ロケ地として観光地としてどういう魅力があるのかなと、これからも、機会がある度に郷土のロケ地を回ってみたいと思っています。


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桜の季節に彦根城。「偉大なるしゅららぼん」はほとんどが彦根城やその近辺で撮影された。

5 件のコメント:

  1. ブログいつも楽しみにしています
    宮津に住んでいます、近くのお店が出ていてとても身近に感じられほっこりしています
    写真もうまく撮られていてとても参考になってます
    最近更新が無く、とても心配です

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  2. 長く更新がされていませんが・・・。
    すごく心配しています。
    春めいてきたこの時期に梅の便りなどありましたら。
    楽しみにしています。

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  3. Shimoさん 匿名さん

     いやあ、すんません。心配していただいたんですか。ほんまにすんません。コメント頂戴していたことすら知りませんでした。申し訳ない限りです。

     イスラム国の事件が起きて、自分の考え方をぜひブログにしたいと思ったんですよ。
     で、その取材から、昨日やっと帰ってきました。
     ウソですよ、ウソ。わざわざウソと言わんでも分かりますけど。

     なにせ62歳という齢で毎日大阪まで往復してますでしょ。
     自分では大丈夫と思っていても疲れてるんですねえ。
     そしたら、一度ブログをサボり出したら、そっちのほうが楽ちんなですよ。

     ところが、先日、うどんぜんざいの話題に出会いまして、これはおもしろい!となったんです。
     またブログに戻ろう。
     人間関係が濃厚なところでは、どんなささいな話もすごくおもしろくなります。
     人とのつながりって、ブログの原動力になってくれるもんなんですね。

     また始めまっせ!乞ご期待!
     これからもぜひともよろしくお願いします。

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  4. なかっちょ2015/07/27 11:16:00

    大津はホンマにいいところと実感している今日この頃ですが、いかがお過ごしですか?
    (きっこのブログの書き出しみたいになってしまいました)
    忠さんのブログ、面白おます。確かに書き続けるのは大変なことですが、このアーカイブな記録は貴重です。力を抜いて、義務にしないで、あえて受けを狙わず、かわいい孫のためにも、天然の文章と渾身の写真でつづっていってください。
    私も今年から、大津の実家から大阪に通っています。
    先週歩いて行った、三井寺にもるろうのロケ場所ありました。
    滋賀、大津はいいとこやと痛感している今日この頃です。ボケてるのではなくリフレインです。

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  5. るろうに剣心とこちらのブログ様のおかげで、滋賀県民、大津市民であることを改めて嬉しく誇りに感じております(^ ^)

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