2013-08-11

千束そば(ちぐさそば)福井県敦賀市 おいしい越前おろし蕎麦にやっと出会えた

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 高校野球が始まりましたねえ。
 福井県へと向かうにも、福井県のなかを走るにも、トンネルが多い。
 そのたびに放送が途切れますが、「またかよ」とつぶやきながら聞くのも、高校野球のうちです。

 店のテレビが熊本工業の攻撃を映していました。
 胸の辺り、土がつきすぎて熊工の文字が見えません。4対3だったか3対2だったか、土で汚れたユニフォームから、1点を争う厳しさが伝わってくるようでした。

 そこは、千束そば。1時を過ぎても活気の続く店です。頭巾とエプロンの女性二人が、食卓と配膳口の間をしきりに往復しています。たいていのテーブルで、いわゆる「サラめし」の客が、天丼つきのランチセットを食べています。ほんのたまたま、電柱広告が目に留まって、それでやってきた店ですが、この活気はおいしさの証ではないかと思えます。

 敦賀駅前から気比神宮にかけて、敦賀の旧市街地では、6割か7割の店がシャッターを下ろしたままになっています。役目を終えてしまった町を少しばかり走り抜けた路地を曲がったところに、千束そばがあります。その小さな場所で、現役の商いが進行中でした。

 福井県では、春まきの新蕎麦が夏に出回ります。福井県内産だといいます。この日食べたおろし蕎麦も夏新(夏蕎麦)でした。蕎麦の香りにそれほど敏感でない私は、秋の新蕎麦ほどの若々しさを感じることができませんでした。けれども、新蕎麦だと言われてみれば、たしかに蕎麦全体が若草色がかっています。これまで食べてきた越前蕎麦は新蕎麦ではありませんでした。そのせいか、もう少し黒ずんでいた気がします。


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 一般的には、夏の新蕎麦は、晩秋の新蕎麦よりも香りが劣るとされています。ネットを調べますと、夏の場合は、新蕎麦とまでは位置づけずに「夏蕎麦」という呼び方に留めておくとの記述もあります。蕎麦通が待ちわびるのは11月頃からの新蕎麦だという話もあります。

 ともあれ、夏の新蕎麦が食べたかったわけではありません。季節柄、ぴりっと辛味の利いたおろし蕎麦が食べたかったのです。
 千束そばは、その望みを、なに不足なく満たしてくれました。福井県ではあちこちの店でおろし蕎麦を食べましたが、こんなにおいしいのは初めてです。嬉しくて、2枚食べました。

 これまでに食べたおろし蕎麦と違って、千束そばではつゆの中に大根おろしが入っています。これまでは、蕎麦の上に大根おろしが乗せられていました。千束そばの場合は、大根おろしを薬味にするスタイルでしょう。蕎麦の上に大根おろしを載せてくる店は、大根を全体にぶっかけるスタイルです。


_DSC0453千束そば:蕎麦とは別に、つゆの中にあらかじめ大根おろしが入っている。同じ敦賀市の「ふ志」もこのスタイルで、やはりおいしかった。

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ふる里:今庄そばの一軒。大根おろし、つゆ、蕎麦が合体したぶっかけ型。おいしいと地元の人から教わった。そのときはおいしいと思ったが、千束そばを知ってしまうと、あれは眠い味だったなあと思う。


 ーーー辛味大根ですか?

 そうではないとの答が返ってきました。普通の大根の中でも辛さの強いのを使っているとのことでした。他の店で尋ねたときでも、辛味大根だという返答を聞いたことがありません。どこの店も、普通の大根だけれども辛いのがあると言います。なにか福井県特産で常に辛さの際立つ大根があるのでしょうか。千束そばでは辛味大根も用意していますが、とくに希望するのなら50円増しだそうです。

 繊維の立ったおろし具合を見たところ、大根の選び方から、おろし金と大根の角度に至るまで、辛さを引き出すコツがいくつもあるのだろうと思えました。まっすぐに立てておろせば、繊維がよく断ち切られて、辛さがよく浸み出してくると聞いたことがあります。
 そればかりではなくて、大根おろしの水気でつゆが薄まらないようにするのも大切なことで、辛味大根が用いられるひとつの理由は、もともと水気が少ない大根だからです。
 千束そばでは、辛味大根を使っていないのに、辛さの点も、つゆを水気で薄めてしまわない点も、辛味大根並みでした。

 太さを少し不揃いにして短く切った蕎麦もおいしさに貢献しています。野趣のある切り方です。蕎麦は麺ではないというメッセージのようでした。おのずとよく噛んで食べることになります。それもおいしさの理由だと思いました。それのみならず、つゆと大根おろしの絡みやすさも考慮してあるはずです。


 福井県は蕎麦が名物ということで、越前蕎麦、越前名物おろし蕎麦の看板をあちこちで見かけます。とはいっても、これが越前蕎麦だ、これがおろし蕎麦だというものは特になさそうです。店任せの多様化が放置されるあまり、店を選び間違えれば、名物に美味いものなしの典型を口にすることになります。店によっては大根おろしで水浸しになったつゆを平気で出してきます。

 福井といえば鯖のへしこも名物ですが、こちらも同じような傾向にあります。山本商店のように、糠と塩だけを用いた生一本のおいしさがあるかと思えば、ソルビトールや何やかやと添加物だらけのごまかし品も幅をきかせています。

 千束そばは、越前蕎麦だとも越前名物おろし蕎麦だとも自称していませんが、なるほどこういう蕎麦屋があるから越前が蕎麦処なのかと納得しました。逆に、越前蕎麦やおろし蕎麦が福井県の名物だと声高に訴える店のうちのどれだけが、福井の蕎麦を本気で誇りに感じているのか、怪しいものです。

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 店を出たら、知り合いのMSさん(医薬品卸の営業マンのことをこう呼びます。Medeical Salesの略号です)がやってきました。千束そばが好きでよく来るそうです。MSさんの仕事は地元密着型ですから、敦賀だけを担当エリアにしています。昼ごはんも当然のことながら敦賀市内です。

---おいしかったわあ。まったく知らんと入ったけど、ここは福井県でイチバンやないかな。

 そう話しかけました。

ーーーいや、どうかなあ。福井県でイチバン?敦賀ではイチバンと思うけど、福井市へ行ったら、まだいろんな蕎麦屋があるしなあ・・・

 そのMSさんは、そう言っていました。
 蕎麦屋探索はまだまだ続きそうです。

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