おもしろい名前の交差点でしょ。
能登半島の入り口近くに位置する羽咋市。のと里山海道の柳田ICへ入るときに、この交差点を通ります。
羽咋市猫の目
このあたり、「猫の目」という地名です。交差点のそばには、同じ名前のバス停があります。国土地理院2万5千分の1地図にも、猫の目と記載されています。
ここには、その昔、家が2軒しかなかったそうです。夜になってふたつの家に灯りがともると、あたかも暗闇に光る猫の目のようだったといいます。そのことをインターネットで知ったのですが、それをそのままここに書いてよしとするのでは、もの足りません。
羽咋市観光協会に電話して、地名のいわれを尋ねました。即座には分かりませんでした。「お調べして折り返しご連絡を差し上げます」ということで、しばらくしたら市の商工観光課から電話を頂戴しました。その電話の女性からも、やはり家2軒説を教わりました。
結果は同じです。でも、ブログにするまでのプロセスとして違うのです。どこがどう違うのかといえば、羽咋市の方の丁寧な対応に触れて、「能登はやさしや土までも」を実感しました。その気持ちがあって書き進めるのか、ないまま書き進めるのか、これだけで大きく違ってくるのです。
羽咋市の心地よさは、他の町であまり経験したことがありません。空がすごく広い町です。この町が晴れた日には、いつも、空気がすこーんと抜けています。町ごと空に抜けて、妨げを知らない砂浜の広さがそのまま自治体になったような町です。
羽咋市は、「鶴瓶の家族に乾杯」でも取り上げられたことがありますから、知っておられる方も少なくないと思います。UFOで町おこしをしようと、もうずっとその路線を続けてきました。その突き抜け方というのか、割り切り方というのか、こういうのを明るい性格というのでしょう。空と共にある町だと思います。
その羽咋市で、ときどきランチになります。たいていは「ぼうぼう」という店で日替わり定食を食べます。840円です。「くりかわ鮮魚店」という魚屋さん直営の食堂です。本体の魚屋さんと隣り合わせになっています。
この840円は、正直、高いと言わざるを得ません。街へ行けば、これを650円くらいでやれないと、客がつかないと思います。おいしい魚を安くという、能登ならではの有り難さが欲しいところです。
けれども、ここの潮汁(あら汁)が、値段の文句を言っておれないくらいにおいしい。日替わり以外のメニューも決して安くないというのに、地元の人たちに人気があって、正午から1時間ほどは相席が当たり前の混み方です。私が行く1時半頃には、奥さんがだいたい疲れ切っています。
穴水の野良猫
猫の目で喜んでいましたら、今度は本物の猫です。
羽咋市からさらに50kmあまり、能登の奥へと走ってきました。ここは穴水町。町役場から波止場へ向かう道沿いに、のら猫が集合する空き家がありました。
正確に言えば、空き家ではなくて、ここのご主人が長く留守状態を続けています。ちょっとしたわけがあって、11月までは戻ってこられません。
ご主人は、小規模ながらも、ここで魚市場的な商売を営んでいたそうです。毎朝、仲買人がやってきて、魚を買って行きました。
ある日、ここなら餌に困らないと目をつけた野良猫が一匹やってきました。ところが、そこからのことです。あれよあれよという間に、ネコがネズミ算式に増えていったというではありませんか。
いまも妊娠中や授乳期のメスがいます。あまり人をおそれないネコ数匹が写真に収まってくれましたが、見えないところにまだまだ隠れています。
近所のご老人が、ネコたちに餌を与えています。餌なんかやってくれるな、そんなことをするからまた増えると他の人から言われるそうですが、放っておくのは忍びないと、そのご老人は言います。
知り合いの魚屋から、魚をさばいたあとに残るあらをもらってきて、この留守宅の冷凍庫でカチンカチンに固めておくのだそうです。毎日とまではなかなかいかないけれど、暇ならばここに来るとのことでした。
餌をやってるのにまったくなつかない、やっぱり家に上げてもらわないネコは人とうまくやれないなあと、そのご老人は言います。ご老人が腰を下ろした日陰に、2匹か3匹のネコがやってきて、まるでご老人の愚痴に聞き入るかのような顔つきを見せています。ネコは、ぼそぼそとした口調が好きです。ご老人の語り口が心地いのか。やがてアスファルトに寝そべり、みんな昼寝を始めました。
内海に沿って
穴水町、真名井川。大橋の畔に立つ古い家屋。穴水は、火星人の存在を主張したパースウェル・ローウェルに愛された町。
海に面して、こんもりとした神社があった。穴水と七尾の間には、海沿いに神社が多い。刈り取りを待つ稲が、穂を垂れ始めていた。
ここの奥さんによると、築200年か、300年か、それくらいらしい。建て替えたくても同じクオリティーの建材がもう手に入らないのだという。ものごころついた頃、60年ほど前、それまで全面萱ぶきだった屋根を瓦の算段構造に変えたとのお話だった。
内海の波は、琵琶湖よりも小さい。カメラを向けた途端に、船の上から餌を狙っていたサギが飛び立った。何でもないところで、何か心に残る景色と出会う。
ルームミラーとサイドミラーに映る景色だけで満足できる道があります。仕事の移動で、予期せずそんな道に出会います。
外海に面した景観が主体の能登半島にあって、穴水~七尾の間だけは穏やかさを旨とする内海沿いの景色です。いつのまにやら、丹後の宮津や栗田にいるような錯覚を生じます。
のと里山海道は、無料の自動車専用道路で便利ですが、山のなかを進むルートです。町と町を点と点で結ぶデジタル接続のような道路であり、町から町へと連続的に風情が移りゆくアナログ感は地道に限ります。
ただし、のと里山海道から見える能登の原生林の大きさと深さには感動します。能登を奥へ進めば進むほど、原生の森が黒々と地を覆い始めます。これから進む先に本当に人が住んでいるのかと思うくらいです。
花咲くいろは、のと鉄道
穴水~七尾の間は、第3セクターのと鉄道も走っています。アニメ好きな方なら、「花咲くいろは」に登場する「湯之鷺(ゆのさぎ)駅」のモデルが、のと鉄道の西岸駅であることをご承知かもしれません。
その西岸駅では、傾き始めた夕陽が、畑仕事の煙を輝かせ、余った力で線路を照らしていました。
第3セクター鉄道の赤字経営は、どこへ行っても同じ。のと鉄道の場合、乗客数を見込めない奥能登対象の2区間が赤字破綻し、いまとなっては、穴水~七尾の8駅、30km余りを運転するのみです。
北近畿タンゴ鉄道(KTR)は、いまだに100kmを超える区間を現役運行中ではあるものの、ずっと前から日本一の赤字路線といわれてきました。
両方の路線とも、夏ばっぱ、ゆいちゃん、そして大吉さんのような人材を必要としています。あのドラマは、あんな風にやれるのだったら赤字も楽しいなという夢を、日本全国の過疎地にもたらしているのかもしれません。
都市以外はみな過疎地という、この国のかたちはいびつです。
つるべ落としはすぐそこに
橋の向こう側は能登島です。
橋は、町の魚はクロダイという七尾市中島町と能登島の間に架かっています。
夕暮れの足が速くなってきました。気温が30度を超えてはいても、秋の夕陽はつるべ落としの季節がすぐそこまで来ています。
この橋は渡らずに、のと里山海道へと進路を変えて、金沢へ戻りました。
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