2013-08-30

へしこ 山本商店(福井県南越前町) さっぱりと、食べやすい味

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 へしこは、生産元がいろいろあって、あれこれ実際に試してみないと、どこがいちばん自分の好みに合うか、知ることができません。
 私は、いまのところ、山本商店のへしこがいちばん食べやすいと思っています。


 この頃は、京都府北部以外の地域の方にも読んでいただいるようで、なかには、へしこって何?という方もおられることでしょう。

 ひとことでいえば、へしこは鯖の漬け物。塩と糠で漬けることによって鯖を保存食に変えたものです。そもそもは、雪国の越冬食として、あるいは北前船の備蓄食として役立ってきました。ご飯のおかずや日本酒の肴で食べるのがいまも主流ですが、それのみにとどまらず、食べ方が多様化しています。

 鯖を糠漬けにして保存する手法は、中国地方から東北地方まで、日本海側全域に広がっています。ただ、へしこを全国に売り広げる意気込みにおいては、なんといっても福井県です。美浜町(三方郡)のサイトは、へしこのトリビアが満載です。


 私は、北陸自動車道の南条SA売店で、山本商店のへしこを買っています。滋賀県への帰途に立ち寄ればいいだけですので、へしこのためにわざわざルートを変える必要もなくて、重宝しています。

 山本商店のへしこは、しょっぱすぎることもなく、きわめてナチュラルな味で、いやになってしまうことがありません。


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 ひと口、ふた口はいいけれど、多く食べようとしたら食傷気味になてしまうへしこもたしかにあって、たいていはくどすぎる塩味がその理由です。とくに、へしこ茶漬けの上にがばっとのせたときに、おいしさよりも先に塩味のきつさを感じることになります。 この点、私が思い描くようなへしこのおいしさを実現してくれるのが、山本商店製でした。へしこだからしょっぱいのは当たり前だとしても、決してくどい塩味ではないところが気に入っています。


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 山本商店のパッケージには、「国内産」と記されています。原料の鯖が国内産だという意味です。同じように「無添加」の表示も見られ、裏返すと「原材料:さば(国内産)・ぬか・塩」との記載があります。
 いっぽう、ノルウェー産の鯖を用いているへしこも多数ありますし、そこにソルビトール他の添加物を加えた商品も決して珍しくありません。上の写真は、SA売店の冷蔵棚ですが、箱をひっくり返してみたら、隣合ったへしこどうしで原材料が大きく異なることに気づきます。

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 福井県立大学非常勤講師小坂康之先生は、「マサバへしこ」という研究論文のなかで、「へしこの呈味に寄与する成分の生成を含めて、その品質形成のメカニズムに関してはほとんど研究例が見られず、品質制御に必要な知見は乏しい」と言っています。

 先生は、塩分濃度、米糠の役割、魚肉の成分変化、冬の低温と夏の高温の両方が不可欠な理由など、へしこがおいしくなる要因を科学的に解明しました。その結果、「多量の食塩を用いて長期間発酵・熟成させる伝統的な技法はきわめて合理的なものであることが確認された。従って、現代的ニーズに対応して製造法を見直す場合にも、これらの品質形成過程を十分に考慮することが強く望まれる」と結論付けています。

 先生の文章中にある「現代的ニーズ」とは、期間短縮製法と減塩製法です。

 期間短縮と減塩の双方を満たしたへしこ製造法を研究しているのが、福井大学のグループです。

 工学研究科の末信一朗教授が率いるこのグループは、「低塩化サバ糠漬け『へしこ』製造方法の実用性」と題する論文のなかで、「伝統的な製造方法では、製造期間が約12か月と長いこと、仕込み時期が限定されてしまうことなど、製造者にとっては不都合な点があり、製造単価を引き上げる一因にもなっている。また、糠漬けにすることで青魚特有の生臭みは減少し、好ましい独特の風味を持っている一方で、塩味が強すぎてたくさんは食べられない、調理方法が限定されてしまうなどの問題点がある」と、伝統的製法に否定的な姿勢を示しています。

 このグループは、調味料を合わせた糠をあらかじめ一定条件下で発酵させた糠(調味発酵糠)を用いて、期間短縮と減塩化を果たしながら、従来並みのへしこを完成させました。この新しい製造法の実用化も夢ではないと述べています。
 同時に、末信一朗教授は、新聞取材に対して、「これをへしこと言っていいのかは分からないが、新しい観光資源となって嶺南地域の活性化につなげられたらうれしい」と答えています。

 「これをへしこと言っていいのかは分からないが」という良心のひとかけらが学者に残っているうちに、福井県は動き出すべきです。せめて県内だけの規制でもいいから、EUの原産地名称保護制度や伝統的特産物保護制度のような考え方を導入して、「へしこ」の名称で正々堂々と売ってもいい商品と、「へしこ」の名称で売ってはならない商品を峻別すべきだと思います。
 それが、へしこの名声と消費者を守ることにもつながるはずです。

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