2012-06-05

おばあちゃんを竜宮城へ 調略編③ おじいちゃん危機一髪

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 私の定年退職後生活、そして、このブログ。両方ともが好スタートを切ろうとする矢先、おじいちゃんが危篤状態に陥りました。
 いやあ、まいった、まいった。
 いまは持ち直しまして、こうしてブログのネタにできますけど、いっときは「もうあかん」と覚悟しました。



【心臓がとまりそう】


 早ければ今夜かもしれません。
 救急外来担当の先生からそう告げられて緊急入院。
 その直後の病室。看護士さんが4人がかりでおじいちゃんの身体に取り付き、点滴の準備です。
 91歳の老体は、男といえども血管が細くて、点滴用の太い注射針を刺せる場所が見つかりません。

 ごめんね、ごめんね。

 いや、U字工事ではありません。看護士さんたちが口々におじいちゃんに謝っています。
 いけそうな血管に目星をつけては試しに針を刺してみることの繰り返し。そのたびに痛がって身体をくねらせるおじいちゃん。それを抑えつける看護士さんたちが、「ごめんね、ごめんね、何回も針を刺して」と謝っています。

 モニターの心拍数はたった32/分。高度の徐脈でした。心臓がいつ停止してもおかしくない状態です。心拍数低下で脳も低酸素状態に陥るのか、起きていながら寝ているみたいなおじいちゃん。
 

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 おじいちゃんは、ときおり空をつかむような仕草を見せていました。そうかと思えば、仏様を拝むように指を組むこともありました。

 たくさんの顔が自分を見ていた。やっと消えてくれた。ほっとした。
 入れ歯を外したままで言葉が不明瞭ながら、そのようなことも口にしていました。

 おじいちゃんの血清カリウム値は9.1。異常に高くなっていました。これが著しく心拍数を低下させていました。腎機能の悪化を示すクレアチニンは7.5まで上昇していました。
 感染や炎症の指標であるCRPが17.1と、これも異常に高い状態でした。白血球数が18000。
 胃か腸か、場所も原因も分からないまま、消化管からの出血があり、真っ黒な血便が出ていました。
 おしっこが出ないというので留置カテーテルによる導尿も必要でした。強制的に排泄されたおしっこの量は1リットル強。かねてよりの尿路感染がさらに悪化して、ひどく
濁っていました。
 カリウム値を速やかに下げるためにカルチコール、尿路感染への対処としてロセフィン、そして、目的はわかりませんが人工のインスリンであるヒューマリン。これらが次々と点滴されました。


 私の娘と息子にも、おじいちゃん危篤のメールを送信しました。娘からの返信を見て、驚きました。

今、思い出したけど、昨日の夢におじいちゃんが出てきてたわ。

おばあちゃんとおじいちゃんと私で京都の山を登ってた。夜で真っ暗な中、道に立てられた明かりを頼りに登って行くんだけど、登る順番を間違えると帰れなくなるとおばあちゃんが口煩く話していて、おじいちゃんは「祇園祭までに登らなあかん」と言っていた。

ちなみにおじいちゃん危篤のメールを見たのは今日の朝だから、夢を見たあと。

 この夢の通りだとすれば、今回は持ち直しても、余命は祇園祭までということになります。
 祇園祭の期間は7月1日~31日です。山鉾が見られるのは7月10日~17日ですが、お祭りそのものは1ヶ月にわたります。



【親族には成り代われない】

 葬式になったら、自分が挨拶するのかなあ・・・
 そんなことも考えていました。

 考えているうちに思い出しました。仕事仲間のお父さんが亡くなって、そのお葬式に参列したときのことです。
 彼は長男でした。出棺を控えて、彼が親族代表の挨拶をしました。

 「皆様方、本日はお忙しいなかを」と挨拶が始まります。
 
 彼の実家は、大きな農家です。庭から地続きの畑で西瓜が大きく育っていました。会社の仲間はその畑沿いに並んでいました。彼の挨拶をスピーカー越しに聞いていました。

 親族に成り代わりまして、私からひとこと皆様方に。
 そう述べる彼の声が届いたときです。頭を垂れて伏し目がちのまま所長がつぶやきました。

 あいつ、親族に成り代わっとるぞ。
 成り代わりましてとか言うたぞ。
 おかしいやろ。
 成り代われへんやろ。

 それを受けて誰かが、ささやきました。

 長男です。
 自分がいちばんの親族です。
 成り代われへんでしょ。
 長男が親族に成り代われるんやったら、成り代わられた親族は何ですか。

 別の誰かが小声で言います。

 成り代われません。
 どう考えても。

 事務の女性は、一生懸命にうつむいて、顔を真っ赤にしています。必死で笑いをこらえています。肩のあたりが小刻みに震えています。
 「西瓜かあ」と自らの関心を畑にそらして笑いから逃れようとする奴もいます。

 別のお葬式で、すぐ前に座った人の靴下に穴が開いていたときも笑えてしかたありませんでした。けれども、「親族に成り代わりまして」にはかないません。



【うどんに手を合わせて】

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 危篤のおじいちゃんを目の当たりにして、おばあちゃんは取り乱しませんでした。こういう日がわりと早く来ると思っていたそうです。
 おじいちゃんの大腿骨骨折が去年の4月。それ以来、加速度的に老いていくおじいちゃんを見続けてきました。
 いまの危篤に現実味を感じないけれど、まあしかたないと思うと言っていました。

 おじいちゃんはしっかりしていませんが、おばあちゃんが思ったよりもしっかりしているので、みんなで病室を出てうどんを食べに行きました。

 覚悟していると強気発言のおばあちゃんでしたが、「いただきます」と手を合わせたついでに、「おじいちゃんがどうか死にませんように」と付け加えていました。ほんとうはうどんにすら手を合わせたくなるくらいの心境だったんですねえ。

 おばあちゃんの願いがうどんに届いたのか、入院から24時間後のおじいちゃんの心拍数は正常に戻りました。うどんをバカにしたらあきませんね。酸素マスクも不要になりました。

 ここしばらくは心配ないでしょう。
 主治医の先生がそう言っています。

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