木でネクタイを作った。
いや、一枚の板をネクタイの形に切り抜いただけのもんではありません。それなら卒塔婆を上下逆さまにしとけばいい。
実用向きの細工を凝らしてあるから欲しくなります。
近江八幡市の「尾賀商店」にランチを食べに行きました。
尾賀商店内の「すいらん」は、古代米料理研究家の杉本宏樹さんがやっています。地場の野菜と古代米の組み合わせがおいしい定食に姿を変えます。
この日、尾賀商店の倉庫(実際は作品展示場に流用されている)では、日野町の木工アーティスト岡井大介さんの展示即売会が開催されていました。
そこに展示されていたのが木のネクタイです。
木ですから結ぶわけにはいきません。襟の中にゴムの輪を通して首からぶら下げるようになっています。
結び目と剣を合わせて7つのパーツに分かれています。剣にあたる6個のパーツは、1枚ずつ金属製のジョイントでつなぎ合わされています。そのジョイントの動きが実に滑らかでしなやかです。たとえば、上半身が前に倒れればネクタイも垂れ下がるといった風に、動きのおもしろさまでが加わります。
木目を生かした表面は艶々しすぎず、かとって落ち着きすぎてもいません。ネクタイというのは、目立ちすぎも沈みすぎもよくないわけで、木という異質の材料を用いながら違和感を感じさせないデザインになっています。
これなら仕事に締めていけると思いました。何をチャラチャラしてだとか、わざとらしいだとか、そういう反感以前に、「へえ、いいねえ、おもしろいねえ」になりそうな気がします。そういう品格というのか、説得力というのか、アソビ以上のものを感じさせます。
お客さんを訪ねて回る営業の仕事ならば、その日はネクタイだけで話題が持ちそうです。
この特性は、素材の薄さ・軽さ、木目の生かし方、細部にわたる作り込みなど、本当にネクタイを作る気持ちで作った真面目さがもたらす結果だと思いました。
アソビの指向を強くした商品では、木の蝶ネクタイがありました。
どんなシャツでもさまになりそうです。
お金を持ち合わせていなくて、残念ながらどちらのネクタイも買えなかったのですが、岡井大介さんの名刺をもらってきました。自分の店舗というのはなくて、今日のように、どこかの場所を借りては展示会をやっているそうです。
関心をもっていただけたようなら、OKAI WOOD WORK(滋賀県蒲生郡日野町大字鎌掛1-22 TEL:0748-52-0260)に問い合わせてみてください。
このネクタイ以上に心を奪われたのが、トチノキで作られたスツールでした。
玄関先などに置いて、靴を履くとき脱ぐときにちょっと腰掛けるための補助椅子です。これからさらに歳をとっていきますと、いつかは必ずお世話になるはずです。いやいや、いまですら、こういうスツールに腰掛けたほうが靴を履くときも脱ぐときも楽です。
お尻への優しいタッチが座って0.5秒もしないうちに分かります。目で見ている間はその心地よさが決して伝わってこないのですが、視力がない分だけお尻は正直なもんです。ふっと体重を分散してくれる軽やかさ。まさにお尻の恋人。
本当に、本当に心惜しいことに、木目が光を跳ね返して輝くあの美しさを、私の写真知識では表現できません。座面いっぱいに光を受けながらも、木目自身が光を吸ったり反射したりで、微妙極まりまりないトーンを生み出しています。
カメラの調整でいえば、おそらく小数点二桁単位の明暗差、彩度、明瞭度、コントラストによるグラデーションだと思います。
とくに美しいのが、「木のシワ」と呼ばれる木目です。木というのは、曲がり方によって自分自身の重さがかかりやすい部位が生じるそうで、そこの木質が密になります。そこをシワというそうです。
どこに触れてみても、木を徹底的に磨き込むことでしか得られない極上の手触りです。忘れる以外に欲しい気持ちを抑える方策はありません。
尾賀商店の本体では、福島県の陶芸家田崎宏さんの白磁器展が開催されていました。こちらの作品も光の透け方で表情が変わる繊細な器ばかりで、しばし見とれました。
ほんと、尾賀商店に来るたびに、欲しいもんだらけで。
お金持ちでないことを悔やみます。1万円札を百円玉の感覚で使えるくらいの金持ちなら、あれもこれも車に積んで帰るのですが・・・
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