2012-03-23

おばあちゃんを竜宮城へ⑮ 在宅介護はご勘弁を

zinseiwo
 「人生を狂わせずに」というのは、老親の介護に当たる子供世代の「人生を狂わせずに」という趣旨です。
 在宅介護偏重の政策が超高齢化社会をもっとわるいものにする。
 特別養護老人ホーム100万床増床が国の急務だと主張する本です。



建築美も猫に小判?

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 木のよさと自然光を生かし、美しいデザインで貫かれた「樹の郷(いつきのさと)」。特別養護老人ホームにはもったいないほどの建築美でした。
 けれども、見学を終えて出てきたおじいちゃんの表情。ひとつもよろこんでいない。自分は入らない家族のほうばかりが、「ええとこやなあ、入れたらええなあ」と話しております。

 うちのおじいちゃんだけではないはずです。これほど斬新な建築でも、年寄りたちが好んで入ってくるわけではありません。「家がいちばん、家で死にたい」の未練はそのまま、頭や身体がいうことをきかなくなって、いたしかたなく特別養護老人ホームに入居します。


 そこまで老いぼれたら感受性も老化すると、私の妻お龍は言います。

 おじいちゃんは、ごはん、おしっこ、うんち。それだけだよ。それだけでいっぱい、いっぱい。きれいなものの値打ちとか、どうでもいいのよ。




在宅介護偏重では先が見えている


 「人生を狂わせずに親の老いとつき合う」の著者和田秀樹さんは、実用性重視でいいから公共の老人ホームを増設し収容力を上げろと主張します。
 使われなくなった校舎や独身寮を改築してもやれることだし、なにも入居者全員を個室に入れる必要もない。寝たきり老人の介護には大部屋方式も見直されるべきだといいます。介護労働者の待遇改善によるマンパワー確保も急務だとしています。


 和田さんは以下のような社会的要因を根拠に掲げて、特別養護老人ホーム増床の必要性を説きます。

入居待ち3年の現実・・・特別養護老人ホームの総定員数は現在41万人。これに対して、入居を待つ高齢者の数が42万人。全国の要介護認定者数は475万人。現状の特養総定員数はその10分の1以下。

需要はますます増大・・・現在、65歳以上でのひとり暮らしは、479万1千人(男性10人に1人、女性5人に1人)。この479万1千人がさらに歳をとれば、ひとり暮らしの要介護者数がますます増加。

介護する側の疲弊・・・介護に起因するうつ病患者数は推計10万人(警察庁の自殺原因資料・うつ病患者の自殺率などから)。介護殺人事件が年間50件発生。被介護者虐待の通報は年間2万件。

増え続ける介護離職・・・家族の介護・看護を理由に離職した人の数は、2002年~2006年で累計56万人。離職者の57%が40~50歳代。この年代で離職すれば復職の可能性がきわめて低い。

子供2人が当たり前の少子化・・・兄弟姉妹の平均数は1.3人(2007年)。非婚・離婚・晩婚の影響が表面化しつつある。仕事のない田舎では、子供2人ともが実家を離れる確率が高い。田舎であればあるほどほど高齢化率が高いのに、田舎であればあるほど在宅介護に困難をきたしやすい。

共稼ぎ夫婦増加・・・女性の高学歴化、雇用機会均等法施行、男性の収入減のために共稼ぎが一般化しつつある現実。介護を女性に任せておけた時代は去りつつある。



親の介護で身を持ち崩すな


うちの姉は、団塊の世代、しかも全共闘世代。私に比べたらめちゃ社会派です。ポリシーで生きる姿勢を貫いています。

 その姉が、この本の著者である和田秀樹さんとよく似たことを言い続けてきました。ひとことでいえば、親の介護の犠牲になるな、です。そのほうが自分にとっても都合がいいので賛同した面がなきにしもあらずですが、ただそればかりでもありません。

 私の場合、上記の番号でいいますと④⑤⑥に該当します。この3つの面で無理しすぎますと、私と妻お龍の老後が悲惨なものになりかねません。経済的・身体的・精神的にです。
 私たちだっていずれは要介護状態になります。そのとき、経済的・身体的に自立度が低かったらどうなることでしょう。私たちの子供に面倒を見てもらうのでしょうか。いや、そんなサイクルはどこかで断ち切らなくてはなりません。
 これは、自分や子供のためでもありますが、社会のためでもあります。家族介護から逃げにくい在宅介護偏重社会が日本をダメにします。家族介護から逃げにくい要因は、家族の自己犠牲を美徳とする倫理観ばかりではありません。入居3年待ちが定常化した特別養護老人ホームの定員数不足も大きな要因です。

 2人の現役世代で高齢者1人を支える時代だし、年金は減額されそうだし支給開始年齢は68歳に引き上げられそうだし、消費税率を上げないとどうしようもないとかいうし・・・
 暮らしにくさと老後への不安は募るいっぽうです。そのうえに、現役時代の後半部分で老親介護に収入の機会を奪われるなんて、たまったもんではありません。

 老親の在宅介護はごめんこうむる。私たちの世代がそう明言しないと、政府は動きません。

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