おじいちゃんが、特別養護老人ホーム「樹の郷(いつきのさと)」へ入居しました。「樹の郷」は地元の水口町に新築された施設です。自宅暮らしは無理でも、地元暮らしだけは達成できました。
おじいちゃんはトイレのすぐ隣
樹の郷の収容人員数は100人です。100人のお年寄りを10人ずつの小グループ(ユニット)に分けて面倒を見るシステムになっています。
おじいちゃんは、「月の村」の村民となり、男ばかりを集めた「輝(かがやき)」ユニットに住むこととなりました。
各個室は部屋番号ではなくて色で呼ばれます。おじいちゃんの部屋は「赤」。北朝鮮国旗と同じ色ですね。トイレのすぐ隣です。
おじいちゃんは、つい先日、ウンコをいっぱいたれました。いや、それはいっぱいウンコをたれた夢だったのですが、あわてて緊急呼び出しボタンを押してしまいました。
午前1時にヘルパーさんがとんできました。
ウンコはどこですか?いくら探しても見つからないんですけど。
午前1時に幻のウンコを探す。ヘルパーさんというのはなんてたいへんな職業でしょう。
写真:上段 月の村輝地区入り口 中段 輝地区の共用スペース 下段 おじいちゃんの個室
見守りの有無が大きな違い
桜が満開を迎えています。
私の妻お龍がおじいちゃんの個室を整える間に、ヘルパーさんがおじいちゃんを庭に連れて出てくれました。
こういうのが、特別養護老人ホームのいいところです。その入居者にとっていまメリットのあることをいましてもらえる。なんでもやってもらえるわけではないけれど、寛容度はかなり高い。それを目の当たりにしました。
この2ヶ月間、サービス付高齢者専用賃貸住宅「Cアミーユ」で、おじいちゃんは暮らしてきました。
骨折の入院から戻ってきたおじいちゃんは自宅で夫婦揃って暮らすのだと言い張ってききませんでしたが、歩けなくなった身体で自宅暮らしは不可能でした。
かといって、介護保険の制約上、要支援1の妻と要介護4の夫が揃って入居できる公共の施設はありません。
自宅は無理でも夫婦揃ってだけはなんとか実現しようと私たちが選んだのが、「Cアミーユ」でした。民営です。
けれども、「Cアミーユ」は、老人用施設ではあっても老人ホームではありません。身体の不自由な老人向けの賃貸マンションです。賃貸マンションということは自宅同様なのだから施設側は必要以上に立ち入らない。こういう理屈で運営されています。
介護サービスを利用することは、もちろんできます。しかし、その中味は、自宅で暮らすのと同様に、ヘルパー派遣会社による訪問介護です。授業の時間割の如く、時間ごとの定型的ヘルプにすぎません。
おじいちゃんの場合は、大腿骨を折った老人がたどるべき死への緩やかなコースを順当に歩んでいます。明日死ぬのならかえって手がかかりません。何かをきっかけに明日もっと身体が不自由になるかもしれないけれどそれだけでは死なない。だから手がかかります。
これ以上の死に損ない状態にならないためには、自力で不可能な行動を無理に試みてまた転んだりしてはならない。24時間の見守りが不可欠になっていました。
そんなおじいちゃんですから、たった2ヶ月間で「Cアミーユ」とのアンマッチが目立ち始めました。「Cアミーユ」が月25万円もかかることを思えば、夫婦同居以外には居続ける意義がなくなっていました。
写真は、暮れなずむ滋賀県甲賀市水口町の心光寺。
おじいちゃんとおばあちゃんの友達はとっくにこの寺のお墓の中です。
この二人に竜宮城はない
おじいちゃんにとってのラッキーは、「樹の郷」が新規オープン施設だったことでした。
滋賀県の既存施設はいずれも200人~300人の入居順番待ち老人を抱えています。既存施設の順番待ちは空きが生まれてもポツリ、ポツリです。介護必要度と入居必然性のより高い老人ほど早く入れます。
おじいちゃんよりもおいぼれた年寄りは世の中にいくらでもいますから、既存施設の順番待ちではおじいちゃんの入居はいつになるかわかりませんでした。
その点、新たに入居者を募る「樹の郷」は、まっさら状態から100人を選びます。この競争ならば、おじいちゃんの入居優先度はけっこう上にきました。しかも、そこは、おじいちゃん、おばあちゃんの地元である滋賀県甲賀市水口町でした。
私たち周囲は、この幸運に感謝して、ほんとによかったという気持ちです。私も、この「おばあちゃんを竜宮城へ」シリーズを、読んでいただいているみなさんと共に気分よく終えたい。
けれども、おじいちゃんはなおも夫婦揃っての暮らしに未練を残しています。自分の入居だけでは満足できず、夫婦揃って樹の郷に入居できないものかと、地元の有力者を動かした節もあります。
おじいちゃんの入居当日、そのような話を樹の郷の職員さんから聞かされました。おじいちゃんが薄汚いのは見かけだけではありませんでした。
介護に達成感はないとよく言われます。たとえば、「脳出血の既往があり高血圧を抱え、変形性膝関節症を認め、歩行障害があり、外出には介助が必要」なんていうお年よりは珍しくもなく、そこに自然の老化も加われば、介護しても介護してもなんの解決にもなりません。
うちの場合はなのか、それとも年寄りは誰もがそうなのか、介護にもうひとつの空しさがつきまといます。
何をしても本人たちの満足にはつながらないという空しさです。
そんなに夫婦で暮らしたいのか。それをかなえようとすればあんたら自身が若返るほかに道はない。
そうなんです。この二人の竜宮城はどこにもないのです。
俺には無理や。ほれ、亀持って来たぞ。亀に乗れ。これがおばあちゃんを竜宮城へシリーズの結論です。
あなたを竜宮城へ ちょんそんち君からの提案
うちのおじいちゃん、おばあちゃんを竜宮城へ連れて行くのはあきらめました。
自分も含めて、これからの年寄りのことを考えます。
野村総研(NRI)が主催するNRI学生小論文コンテスト。2011年のテーマは、「日本を元気にする」でした。応募総数1037件。入賞論文のすべてを読んだわけではありませんが、高校生部門で優秀賞に選ばれた鄭善治さん(神戸朝鮮高級学校2年)の論文に夢を感じました。
鄭善治はちょんそんちと読むそうです。
鄭善治君は、「NEW-YEAR~2025~日本が進化する年」と題する論文のなかで、日本社会が世界中の貧しい子供たちの里親になろう、そして日本で働いてもらおうと訴えています。彼らを救うことが少子化に悩む日本を救うことになると主張しています。
Click to NEW-YEAR~2025~日本が進化する年
鄭善治君が注視する2025年とは、団塊の世代がみな揃って75歳に突入する年です。その時点での介護保険費用は20兆に達すると見込まれています。現時点ですら8億近くの介護保険費用。それだけでも消費税増税が議論されるというのに、20兆円なんぞ無理です、無理。
(図は財務省の資料から)
日本の老衰化をなんとしても防ぎたいという鄭善治君の熱意に打たれました。
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