2013-03-23

初雪食堂と大久商店(滋賀県近江八幡市)

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 初雪食堂。なんときれいな名前でしょうか。
 古い町並みのなかで営業しています。
 その古い町並みには、古さを演出したやらせチックな店もありますが、初雪食堂にそんな小細工はまったく無用。なぜなら正真正銘の古さだからです。
 ドコモのテレビCMで使われたりで有名になったそうです。

初雪食堂

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 近江八幡市商工会議所の企業情報によりますと、創業が昭和20年(1945年)、設立が昭和30年(1955年)だと紹介されています。
 設立というのは、有限会社初雪になった年だと思います。

 表構えだけを見ますと、そこまで古い店だと思えません。店内に腰かけても、レトロな店だなあとは思っても昔臭さは伝わってきません。
 けれども、いちばん奥にあるお手洗い行ったときに、この店すごいわと感じ入ってしまいました。初雪食堂隣のIKKAは放置されていた町屋を借りて改装したCafeですが、その築年数が150年ほど。それと比べて古さ競争で負けるとは思えません。
 そんななか、外観や店内がさほど古臭くないのは、古さに伴う不便さを改めるべく改装した結果でしょう。

 この店のお手洗いへ行ったときの話です。

 何人かの常連さんが、厨房を抜けてそのまた奥へと入って行ってました。で、誰もが、2~3分したら戻ってきます。常連さんたちだけに、店の誰かに挨拶しに行くのかなと思っていました。
 ひとりの男性を目で追うともなく追っていますと、「すんません、お手洗い」と断ってから入っていきました。なるほどそういうことでしたか。厨房を抜けた奥のほうにお手洗いがあるようです。

 すんません、お手洗い。
 私も常連さんたちの真似をしてみました。

 厨房は時のトンネルへの入り口でした。厨房をくぐり抜けてトイレへと続く通路に足を踏み入れた途端、本物の昔に出会いました。
 土間には、長方形の花崗岩が敷いてありました。踏みしめてみます。花崗岩の表面や角が磨り減っています。人の暮らしが生み出した磨耗です。
 土間の固い土でつながる隣側は広い空間になっていて、そこは昔の炊事場です。静けさも清らかさも天井の高さゆえでしょうか。これは風呂かというほど大きな竈(かまど)もありました。奉公人も含めた大人数の食事をここでこしらえていたのかもしれません。

 トイレまでの土間は自然採光に頼っているだけです。奥から振り返れば厨房がとても明るい場所に見えました。店の人たちがてきぱきと働く姿がシルエットになって見えます。
 あの厨房から向こうと、いま自分がいるこの土間が同じひとつの世界だなんて本当でしょうか。違う世界だと言ってもらったほうが納得しやすい。昼ごはんを食べる客たちの会話もここまで届いてきませんし、独り旅の旅先にいるような気分になります。

 初雪食堂でオシッコしたくなるかならないか。したくなったあなたはラッキー。時空を超えた旅ができます。


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 さてさて、めちゃおいしいあじフライ定食でした。
 おいしさのヒミツは、熱々・厚々・タルタルです。

 熱々は、揚げたてをフハフハ言いながら食べるおいしさ。
 厚々は、パリっとしてプックリ、全体がふっくらしたおいしさ。
 タルタルは、タルタルソース。これをつけたら2倍おいしい。

 あじフライ定食で900円というのは相場に比べて150円~300円は高いのかなと思いますが、味噌汁やお漬物のおいしさも含めて、この味なら900円で取り過ぎだとは思いませんでした。

 厨房ではご主人らしき男性が手を休めることなく調理を進めています。厨房の様子は客からよく見えます。オープンキッチンなんて言いますが、オープン以上のオープン。調理過程が丸見えです。
 これは、客と店の間で交わされる言葉抜きのコミュニケーションだと思いました。客の側からは自分のためにどれほど一生懸命に調理が進んでいるかよくわかりますし、厨房の側からは客がどんな表情で料理を食べているのかがよくわかります。
 顔が見えるナントカという言い方をすることがありますが、そのお手本を初雪食堂で見た思いです。

 調理のアシスタント役はご主人のお母さんとお見受けしました。おいくつでしょう。80歳をとうに過ぎて、ひょっとすれば85歳を超えておられるかもしれないと、私には思えます。けれども、手際のよさは年齢よりもうんと若い。元気なお母さんのきびきびした動きをながめているうちに、ランチハウスリリーの元気なお母さんに急に会いたくなりました。

 厨房も手伝いながら注文をとったり配膳をしたりされているのが、きっと奥さんでしょう。忙しさは並大抵ではありません。奥さんの伝えた注文をご主人が復唱します。その短い間も、ご主人の集中が切れることがありませんし、奥さんは、たとえば、口を動かしながら手はお茶を汲んでいるなど、やはり動作が止まりません。

 観光客の多い通りに店を構えているのに、観光客らしい姿はほとんどありませんでした。家のリフォーム業者のような服装でやってくる地元の常連さんがほとんどです。創業の1945年以来、2013年までの68年間、このようにしてずっと地元に愛されてきたのでしょう。
 今日という日も、この忙しさも、繰り返しの一日にすぎません。


大久商店


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 初雪食堂の斜め向かいに、大久商店という雑貨店があります。
 ここもまた古い店です。
 その証拠に、まあ、見てください。アルマイトの弁当箱が売ってます。北星アルミの製品です。おかず入れもあります。
 それだけじゃないです。すぐそばに並べてあるポットは、なんと乾電池で作動します。しかも、いまどきのアルカリ乾電池は受け付けません。昔ながらのマンガン乾電池でなければいけないのです。


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 インターネットでは飛ぶように売れる弁当箱やおかず入れですが、大久商店の場合、べつに昭和レトロで儲けようというのではありません。
 私が弁当箱を買ったとき、店の奥から出てきた若奥さんは表のワゴンで売っていることすら知りませんでした。「え?こんなん売ってましたか」とビックリしていたくらいです。
 というのも、大奥さんというのか、おばあちゃんですね、おばあちゃんがいつのまにかワゴンに並べておいたものだからです。

 おばあちゃんによりますと、この弁当箱などワゴンの中は売れ残り品。昭和の時代が残していった売れ残り品。いまは亡きご主人が数十年前に大量に仕入れた在庫品がいまだにあり余っているのだそうです。
 出しておけばボチボチ売れないこともないからと、在庫を少しでも減らす目的でワゴンに入れてあるそうです。ゼリーや寒天を冷やすのにこの四角さがいちばんいいと買っていく人もいると言いますから、実用品として売れているわけです。

 お店に入りますと、ワンちゃんが2匹出てきます。ワンワンワンとは言ってますけれど人を噛んだりしません。名前は陸くんと海くんです。
 陸・海・空と3匹いたそうですが、空ちゃんは今年になって死んでしまいました。空ちゃんだけはネコでした。陸くんは長生きで、飼い始めてから14年になるそうです。
 テレビ東京の番組でさまあずがやって来たときも陸くんと海くんは大活躍だったようで、さまあずの色紙には2匹へのお礼も書いてありました。





 

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