2013年3月15日をもって、エクスプローラー車両が定期運行便から姿を消しました。本来は特急として走っていた贅沢車両だけに、これからも観光用列車で単発的に登場する機会があるそうです。
カネの問題だけじゃない、けれども、やっぱりカネの問題
1990年の開業以来、KTRはずっと赤字経営を続けてきました。赤字は5年につき1億円のペースで拡大し続け、2011年度には過去最大の7.7億に達しました。2012年度の経常損失額については、更なる拡大が予測されていて、その予測通りならほぼ9億円になる見込みです。
赤字とひとくちに言いますが、KTRの場合、地域の便利さを支えるためのコストでもあります。
そもそも、KTRの事業は、国鉄が見放した宮津線を引き継ぐ形で始まりました。その宮津線は、年間30億円の赤字にあえぐ路線でした。国鉄が廃線にする方針を曲げないのですから、第3セクターとして残す以外に地元住民の悲願をかなえる方策はありませんでした。
鉄道がなくなれば明日からすぐに困る人がいる。だから、赤字は百も承知でスタートを切ったのです。
誕生の経緯を振り返れば、赤字を生み出すこの構造はKTRの先天的な資質です。それは現在においても何ひとつ変わっていません。いや、むしろ悪化しているかも。だから赤字拡大に歯止めがかからないのです。
最近、こんなニュースもありました。
長くなりますが全文を引用します。
兄妹のため快速停車 宮津の駅「部活最後まで」
第3セクター・北近畿タンゴ鉄道(KTR)が、1日平均の乗客数が3人で普通列車しかとまらなかった京都府宮津市の無人駅に、3月のダイヤ改正で夕方の快速列車1本を停車させることになった。
この春からそろって同市中心部の中学校で勉強や部活動に励む兄妹の下校時間に合わせるためだ。ローカル鉄道の粋な計らいを知った2人は「感謝しきれないくらいうれしい」と喜ぶ。
宮津市南部の山あいにある辛皮からかわ駅。近くに住む市立宮津中1年の藤田徳享のりゆき君(13)が現在、約9キロ北の宮津駅まで、妹で市立上宮津小6年の千尋さん(11)は約6キロ北の喜多駅まで通学で朝夕列車を使っている。
宮津中では全生徒に部活動をするよう勧めており、徳享君は卓球部で汗を流している。4月には千尋さんも同校に進学し、卓球部に入るつもりだという。
ところが、KTRの現行ダイヤでは、宮津駅を午後5時18分に出発する普通列車を逃すと、次の便は午後8時10分まで3時間近くもない。徳享君は部活動を途中で切り上げて家路を急がざるを得ず、「後片づけをしてくれる友達や先輩に申し訳ない」と悩んでいた。
こうした現状を受け、同校が昨春以降、市を通じてKTR側にダイヤの配慮を要望していた。関係者によると、午後6時台前半に宮津駅をたつ快速列車を辛皮駅に停車させる方針が固まったという。ダイヤ改正は近く正式発表され、3月16日から実施される予定だ。KTRはこれまでも沿線自治体の声を踏まえ、高校の下校時間帯に快速を複数の駅にとめているという。
辛皮駅の1日平均の利用者(2011年度)は兄妹を含めて3人で、2路線の全32駅中で最も少ない。宮津市の担当者は「こんな小さな駅に快速が停車するようになれば異例のこと。地元の意をくんでもらえてありがたい」と歓迎する。
徳享君は「部活動が最後までできるのがうれしい」と話し、千尋さんも「先輩よりも早く帰宅するのには抵抗があった。心おきなく部活や勉強に打ち込めます」と、4月からの新生活を心待ちにしている。
北近畿タンゴ鉄道 京都、兵庫両府県の北部を走り、2路線計114キロ。年間利用者はピーク時(1993年度)に303万人だったが、沿線の人口減などで3分の2程度に減っている。昨年度の赤字は全国35の3セク鉄道で最多の7億7500万円に達し、出資する京都府などが車両改修など経営改善策を検討中。
(2013年2月22日 読売新聞)
美談として感激される方もおいででしょう。しかし、それほど不便なところから中学生が列車通学している点に目を向ければ、それこそ辛皮という駅名通り、辛い皮を口にしたような話でもあります。
この兄妹ほどの依存度ではないにしても、KTRは沿線地域に11の高校を持ち、通学の生徒たちを大いに助けています。大江高校では360人中240人が、久美浜高校では300人中100人がKTR通学だとの調査結果もあります。この2校のみならず、高校所在地の駅では、他の駅に比べて、1日あたりの乗降客数が明らかに多くなっています。
仮にKTRが廃線となりバス通学に変わるとしたら、運賃が高くなり、時間もかかります。自家用車で送迎といっても3年間ほとんど毎日です。そんなことができる家庭はほんのひと握りです。
KTRが社会基盤であることを示すいちばんの好例として高校生を取り上げました。社会を担う次世代の勉学の機会をKTRが支えています。
ほんと、KTRの存続はカネの問題だけじゃないんです。けど、やっぱり、カネの問題なんです。ここが大きなジレンマです。
京都府は上下分離方式導入を目指すと言うけれど
京都府はKTRの経営再建策に向けて動き出しています。
京都府は第3セクターKTRの筆頭株主であり、赤字額の50%近くが府の予算で補填されています。たとえば、2012年度の赤字補填を例にしますと、京都府が3.5億円、沿線の4市2町と兵庫県で4億円。合計7.5億円の金がKTRに流れています。
このネタを書くまで知りませんでしたが、KTRの経営陣には沿線自治体の首長が副社長として名を連ねています。京都府副知事も副社長を務めています。
経営母体が第3セクターだからこのような陣営になってしまったのですが、この経営体制が税金による赤字補填を容易にしてきたのだといえます。
経営陣が自治体の幹部たちなのですから、自分で自分に頭を下げて赤字補填をお願いするようなものです。
所有者と経営者が同一であるがゆえに経営責任が曖昧にされやすいと、第三者委員会であるチームKTRは分析しています。
赤字が出たら出た分だけ税金で穴埋めすればいいという安易な経営体質は、首長たちのなれあいのなかで育まれてきたのだと思います。
ところが、2012年度の赤字額はさらに拡大し、いよいよ前代未聞の9億円に達するリスクも生まれてきました。
赤字額は加速度的に拡大しています。これまで5年で1億円ずつ拡大してきたものが、ここ5年間では一気に2億円と、急速に膨れ上がっています。このまま放置すれば来年度は10億円の赤字が出てしまうかもしれません。
京都府や沿線自治体は、それでもなお赤字垂れ流しのKTRに税金を投入し続けるのです。
それならせめて納税者へ顔向けできるくらいの真剣さを示す必要があるのではないか。
それにしてもこの赤字はいったいどこまでいくのか。
止めることができるのか。
京都府にそういう危惧が芽生え始めたのだと思います。
まず、2011年4月に北部地域公共交通検討会が発足しました。
そして、その年の秋に専門家を集めてチームKTRが組織されました。
さらに、2012年7月、副知事に就任した岡西康博氏がKTR問題を受け持つことになりました。岡西氏は国土交通省出身で、関西空港と伊丹空港の経営統合問題も経験した人物です。
この三者は、KTRへの上下分離方式導入を打ち出しました。
上下分離方式は、線路・土地・建物など基盤部分を自治体が保有し、その維持管理責任を負ういっぽう、運行業務を主体とする収入部分を民間業者に任せる方式です。上下分離方式導入によって基盤部分に対する国庫補助が増えますから、その分だけ自治体の負担額は軽減されます。
つい最近、信楽高原鉄道が上下分離方式を導入するというニュースが流れました。あの第3セクターも大赤字の代表格です。
鉄道模型を使って鉄道会社経営ごっこをやっていると仮定してみて下さい。
鉄道模型の持ち主はあなたです。友達A君が経営者役になって列車を走らせます。あなたは自分では列車を走らせずにA君が走らせるのを見ているだけです。
鉄道模型でA君が遊べば遊ぶほど、なにかと壊れたり古くなったりします。でも平気です。なぜなら、国庫役のお父さんが、鉄道模型の修理費くらいならまたあげるよと約束してくれたからです。
上下分離方式を単純化すればこんなところです。なによりもA君が身軽です。鉄道模型を持ってもいないのに好きに走らせて楽しめる。
たとえ話だけなら実にうまくいきそうに聞こえる上下分離方式ですが、果たしてKTRの場合もこんなにうまくいくのでしょうか。
私は懐疑的です。
上下分離方式を始めるためには、運行業務を受け持とうという民間業者を探し出さなくてはなりません。けれども、いまのKTRで商売になると判断してくれるような甘い企業はありません。
KTRの2011年度決算を見ますと、旅客輸送収入が8.5億円です。しかし、そのなかの7.1億円は人件費で消えていますし、燃料の軽油代が2.1億円となっています。これだけで約0.7億円の赤字です。
他にレール交換などの修繕費に5.7億円という支出もありますが、上下分離法式後は自治体の受け持つ出費ですから、計算に入れないでおきます。
となりますと、旅客輸送収入であと1億円ほど増やしてやっとプラマイゼロ、黒字転換のためには現在よりも2億円、3億円の増収を実現しなくてはなりません。
いやいや、2億円の増収があっても黒字額は1億円にすぎません。果たして魅力的なビジネスだと言えるのかどうか。
しかも、わずか1円の増収すら困難なKTRだから赤字がどんどん拡大してきたのです。その鉄道で億単位の増収なんて本当にできることなのか。
KTR沿線では不動産売買や大型店舗経営といった副業もたかがしれているでしょうし、上下分離方式のパートナー企業に向かってどういう夢を提供できるのでしょうか。
そう考えれば、上下分離方式といってもどこまで現実を踏まえた上での提案なのか、きわめて怪しいところです。パフォーマンスとしてぶち上げているだけのことじゃないかと思いたくなります。
私のようなひねくれた見方に対する答が、チームKTRの提案事項のなかに含まれています。
今後10年間のうちに42億円を投資し、老朽化したインフラを整備しなおしKTRの魅力度をアップするというプランです。
そこには、夏場の冷房がちゃんと効くようにするといった身近な改善内容も含まれています。まだ本決まりした案ではありませんが、おそらく通るものと思われます。
これまでKTRに投入されてきた税金は赤字補填を理由とするものでした。今回、初めての試みとして、経営改善のために税金を投入しようというのです。
しかも、首長たちのなれあいから生まれた税金投入案ではなくて、第三者的立場にあるチームKTRからの提言です。
そこにひょっとしたら一筋の光明というやつを見出せるのかもしれません。素直にそう思ってしまいたいし、ぜひそうであってもらいたいのですが、KTRの赤字はもって生まれた体質だ、そこが丹後だからだ、京都府北部だからだとの思いを打ち消すことができません。
私の言いたい放題はともあれ、エクスプローラー車両の引退は、こうした大きな流れのなかにありました。
通常運用から外すことを提案したのはチームKTRでした。速やかに(25年度内に)改善すべき事柄として挙げていました。
4月14日から登場する「あかまつ号・あおまつ号」も、チームKTRの提案が実行に移された結果です。
いけ、エクスプローラー おまえの痛み受け止めた
3月15日、午後3時、タンゴ浪漫2号を宮津駅1番線ホームで待っていた乗客数は、下の写真で見ていただく通りです。
3両編成のエクスプローラー車両で運ぶべき客数か。
1両編成、ワンマン運行で十分やないか。
いちばん右は高校生やないか。通学定期で乗せるのか!
仰せの通り!
エクスプローラー引退の理由が一目瞭然です。
エクスプローラー号の定員数は3両合わせて150人です。普通車両のMF車ならば1両で84人、KTR車ならば1両で114人を運ぶことができます。しかも、1両編成の普通車両の場合はワンマン運行が可能です。やりすぎのエクスプローラーだといえるでしょう。
私は、エクスプローラーが大好きでした。どこまでもまっすぐ久美浜砂丘を貫いて走る姿にシビれました。奈具海岸を行けば、きらめく海の青さと車両に跳ね返る光。見とれました。遠くの山を背景に峰山を抜けていく風情も心に染み入りました。
しかしながら、エクスプローラー号は去り行く運命(さだめ)にあるのだと、いまは納得せざるをえません。丹後で売り上げも上がらんくせにと、エクスプローラーも言われたのでしょうね。その痛さ、分かります。
あまりにものを考えていなさそうなKTR。エクスプローラが毎日走ってるなんて、わるい意味でのKTRらしさを象徴しすぎています。だから、スケープゴートとして去るのだ。私はそのように解釈しています。
2011年9月28日の京都府定例会一般質問において、大橋一夫議員(民主党)が、KTRと地元自治体の首長たちの熱意がきわめて低いことを指摘しています。山田啓二知事もその事実を認め、関係者が危機意識を共有できていないと答弁しています。京都府が笛吹けど地元が踊らずなのです。
とてもネガティブな発想で恐縮至極ですが、地元自治体首長の意識の低さまでを含めて、KTRの赤字は京都府北部の実態を映し出す鏡みたいなものだと思っています。黒字転換策があるかのような空論はやめて、「黒字なんかあり得ないけれど」の発想でKTRの存続価値を考え直すべきだと思います。
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