2013-05-02

アトリエ・キーメン・船着場(滋賀県近江八幡市) モノを売らずにコトを売る

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 “The lighting that we propose is a tool to make it more attractive to feelings”と、店の表に書いてあります。
 この一文に、店主でもあり職人でもある村井賢治さんの心意気が込められていると、今日思いました。


 当工房の提唱する照明がいままで見えなかったものを照らし出す手段であれと願っています。

 私がその英文をこのように解釈したのも、村井さんと話した結果です。




ひょうたんから駒

 友達の家に行きますと、照明の光量をわざと落としています。
 おまえとこはソーラー発電やし、いっぱい電気がないのか?
 いいえ、もちろんそんなことはない。壁の数箇所にオシャレな照明器具がくっついています。要するに照明に凝っているのです。

 彼の家も、元は明るい照明器具主体にやってました。ところが、スウェーデン人の友達が遊びにきたときに、「眩しい。目を開けていられない。照明を落としてくれ」と言われたそうです。日本家庭の一般的な光量が、青い目のスウェーデン人には強すぎたみたいだと、彼は言います。

 それをきっかけにして、彼とその妻が照明をあれこれ試行錯誤し始め、照らすとは単純に明るくすることではないのだと考えを改めていきました。

 それに影響を受けたのが、うちの妻お龍です。観葉植物のそばにホワっとした灯りが欲しいと言い出しました。ほんならこうしとけと、私はアヤハディオで和紙の大きいのを買ってきました。和紙を筒状に丸めて、使わなくなった電気スタンドに被せました。

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 驚いたのは、私自身です。やっつけ仕事のつもりでやったことなのに、予想外に雰囲気を演出してくれたからです。そこから私も照明のおもしろさに目覚めました。



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手紙を書くための照明空間を体験してもらう

 アトリエ・キーメンの実店舗は近江八幡市の八幡堀に面した一軒だけですが、オンラインショップ(http://key-men.shop-pro.jp/)の他に、日本各地で商品展示会も開催してきました。
 
 その展示会が、ちょっと風変わりです。

 展示会場に文机を並べ、それぞれの机を自作の照明器具で照らします。手紙を書くための個人用スペースをそのようにして作り出します。来場者にその場所で手紙を書いてもらおうというのです。

 どの開催地でも手紙を書くための展示会というわけではありませんが、鎌倉、東京、京都、大阪などで実施してきました。
 会場風景の写真を見せてもらえば、何人もの人たちが座っています。机や座布団を調達するところから苦労だそうです。しかし、村井さんは、手紙を書いてみれば照明空間のもたらす心理効果を端的に体感できると信じて、セッテイングの労を惜しまないそうです。

 手紙を書くというのは、心を研ぎ澄ます行為です。照明がそれをどうサポートできるか。店を始めた頃、村井さんは「星言葉」というデスク用ライトを作り、それを女性が手紙を書くための照明だと位置づけました。

 村井さんのブログ(http://blog.key-men.net/)を読みますと、2013年3月2日の記事で、私の聞いた展示会の様子が紹介されています。「Atelier Key-men の 手紙を書く空間と出会い」というタイトルです。


村井さんの「Atelier Blog」 (上の画像をクリック)



「それ」を惹き出せるかどうかが勝負

 来場者はどんな手紙を書いていくのでしょうか。

 いままでプロポーズが一件、あとは、ずっと長いこと喧嘩していた家族に手紙を書きたいという人もありましたねえ。
 
 自分の部屋ではなかなかうまく書けなかった手紙を書きに来る人が多いと、村井さんは言います。

 照明や雰囲気が変わったくらいで手紙の中味が変化するのかとも思います。けれども、釣り道具、ゴルフクラブ、楽器、化粧品、文房具など、モノのもたらす心理効果については枚挙にいとまありません。

 もし、展示会場で納得のいく手紙を書き上げることができたのなら、それこそ店の表の英文にあった通り、「a tool to make it more attractive to feelings」の効用です。「それをもっと魅力的に感じさせるための道具(手段)」がうまく機能してくれたわけです。

 じゃ、「それをもっと魅力的に(make it more attractive)」の「それ(it)」とは何か?
 英文法の問題ではないから正解はありません。

 「それ」は、人それぞれの心とでもいうのか、気に入った照明空間に出会ったときに、じんわりなのか、すんなりなのか、どこかから顔を出すものでしょう。その気にさせる照明。だから、私は、店先の英文を、「いままで見えなかったものを照らし出す手段」と解釈したのです。



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モノを売らずにコトを売れ

 京都市、三条通と柳馬場通の交差点に、小さな照明器具店があります。
 作家の一点物だけを扱っていて、町屋を改装した店内にステンドグラスを用いた照明器具が飾られています。
 そこの商品はいずれも高価です。「あ、これ、いいな」と思って値札をひっくり返したら\294,000とか、そういう店です。

 「ええけど高いなあ」と私が言うと、すかさず店主が言い返してきました。輸入品のガラスが使ってある、手間のかかる品である、この作家の作品はだいたい3ヶ月待ちである、毎日5点はコンスタントに売れるほどの人気作家である。

 この店主が後輩の若い営業マンなら説教していたに違いありません。モノを売らずにコトを売れ!
 
 材料代やらなんやらで、結局これだけの値段になってしまいますけど、部屋の灯りを消して、このランプをスピーカーの上に置いて、この光だけでなんか聞いてみてください、そら違いますよ。

 とかなんとか、モノを売らずにコトを売る話法があっていいはずです。たかが照明器具に30万円近い金を出させようというのですから。実用性だけならば、もっと安いやつのほうがもっと高い。

 値段のことは何も言わずに買っていく客ばかりだとその店主は言います。であるならば、それは売っているのじゃなくて、売れているだけです。その姿勢では、あのような一等地に新しく店を構えても、趣味でやってるのでもないかぎり、長続きするとは思えません。



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村井さんのマインドも三方よしか

 こんな出来事を思い出したのも、アトリエ・キーメンがモノを売らずにコトを売っていると思ったからです。そのマインドには、近江商人の「三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」に通ずるものを感じます。三条柳馬場の照明器具店は「売り手よし」の面のみ述べたにすぎません。

 京都から近江商人が生まれなかったのは、これだけ隣接していながらも歴史の中で育まれた精神風土がまったく違うからでしょう。いま山田啓二京都府知事が滋賀県との合併を提案していますが、冗談じゃありません。京都と滋賀には共通項が多いと山田知事は言いますが、相容れにくい事柄のほうがもっと多いのです。



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本気で本を読むためのランプが欲しい

 私は、今日、読書ランプを探しにアトリエ・キーメンに行きました。真剣に読みたい本があるからです。おまえはアホかと言われそうですが、「ヒトはなぜ太るのか?そして、どうすればいいか」という本です。
 糖質制限ダイエットを追いかけ続けてきた医療ジャーナリストであるゲーリー・トーベスが10年間を費やして書き上げた本です。

 読後の結論は見えています。糖質を減らせ、です。

 けれども、その結論に至るまでには、インスリンや脂肪細胞の話など学術的事実が容赦なく顔を出すことでしょう。それだけではなくて、穀物を多く摂ると健康にわるいという医学的事実の指摘は農業の利害を損ねる主張でもあります。しかし、穀物の摂りすぎを放置すれば生活習慣病が増えて医療費を抑制できない。そうした社会的ジレンマにもページを割いてあるはずです。

 自分がやせるために読む。これが第一ですが、それ以外にもけっこう面白そうな本だと期待しています。そういう風に本気で読みたい本が出てくると、これまでの読書環境がなにかもの足りなくなってきます。

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大久のお母さんにさとされながらも

 気に入った読書ランプが見つかりました。「Function」と名付けられたそのランプは男性客に人気が高いとのことです。

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 店の展示品の電球は10Wですが、実際には用途に合わせて明るいものに換えることができるそうです。本を読むのに10Wでは暗すぎます。
 アームを前方に伸ばして使う場合を想定して、土台の内側に鉛を仕込んで安定性を高めてあります。これでも充分に重いのですが、私はめちゃくちゃ前方まで電球をもってくるつもりです。それを伝えたら、土台の鉛が2倍入っている初期の商品がいいだろうとのことでした。

 さて、値段は50400円。ウワッ!!
 モノを売らずにコトを売るのも難しいけれど、モノを買わずにコトを買うのもけっこう難しい。いざとなったら迷います。

 同じ近江八幡市の金物店「大久」のお母さんが私に言いました。5点か6点のセットで総計2万円くらいの鍋とフライパンが棚にありました。積水化学製ですごくいものでした。それを買いたいと言ったときのことです。

 あんた、もうちょっと思案せなあかん。欲しいもんを何でも買うたらええちゅうもんやない。

 そうかと思ってやめました。お母さんのように楽しい人と出会えた思い出にしたいねんと言いたいところでしたが、それではお母さんが明日にも死にそうでよくありません。「惰力で生きてますねん」とかご本人はおっしゃってますが、そんなことない。めちゃお元気です。

 「大久」のお母さんに制止された2万円がアトリエ・キーメンの読書ランプ用に回るのでしょうか。



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船着場だから

 アトリエ・キーメンの正式名称はアルファベット記述でAtelier Key-menです。単にAtelier Key-menといえば会社名のようなもので、ホームページには以下の業務内容が記載されています。
 銅製照明器具、鉄製建築金物の制作、取付工事、店舗デザイン、施工 、イベントや各展覧会での照明演出、各地での個展活動。

 いま私が書いていますのは、「Atelier Key-men 船着場」でして、近江八幡市の八幡堀沿いにある店舗です。八幡堀が緩やかに流れの方向を変える地点に船着場が設けられ、ちょうどその前に店舗があります。

 店の裏口に、リールをセットしたままのロッドが立てかけてありました。八幡掘は琵琶湖ともつながっています。思い立ったらすぐにでも子供さんと一緒にバスやブルーギルを釣るためかもしれません。

 子供が中学校に入ったら、部活、部活で相手にしてもらえなくなると村井さんは言っています。子供と一緒の時間が好きだし、子供のためにもだいじだし、いまのうちにうんと一緒に遊んでおきたいと。
 だから、観光客の多い時期でも定休日ならきちんと休むそうです。うちの妻お龍は、「人の心に届くものを作る仕事だから、まずは人の心を大切にしないとネ」と賛同していました。たまにうまいこと言います。

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 明日になったら、孫の聖太郎がやって来ます。5月5日は端午の節句。日牟禮神社の和菓子舗「たねや」では、ちまき(漢字は粽なのか)がいちばんいいところに置いてありました。

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