いろんな店でいろんな話を聞かせてもらって、買い物というよりも見学や遠足といった一日になりました。
高い買い物をしない客なのに、みなさんご親切に本当にありがとう。
焼き物の町信楽には陶器店がいっぱいあって、一生かかっても訪れきれないほどです。好みに合う食器を物色しながらですと、1日に10軒が限度だと思われます。もっとじっくり吟味するつもりならせいぜい5軒くらいでしょうか。
小さな店ならすぐに見終わるというものでもありません。小さな店は作家を絞って個性的な作品を揃えています。高すぎて手の出ない作品があれば、買えない分だけゆっくり鑑賞していたくなります。それに伴って店から教わる話も深くなりますので、大きな店をウインドウショッピング的に回るよりも時間がかかります。
この日は、「2013春の信楽アートな歩き方」に参加していた小規模店ばかりをピックアップして回ることにしました。この企画は、4月6日~5月6日の期間で開催されていました。
2013春の信楽アートな歩き方HP=http://art.shigaraki-sp.com/
【きりん 陶器店というよりクラフト店 ALUKILIKOのタヌキを買う】
背の高い八角形の建物が特徴的な「きりん」では、ALUKILIKOが初めての個展を開いていました。
ALUKILIKOというのは、作品につけられたキャラクター名であるとともに、それをこしらえている作家さんの自称でもあります。
その作家さんは、信楽の卯山製陶で焼き物の基礎を学んだ桐畑望美さんで、タヌキをモチーフにした置き物をこしらえています。彼女のタヌキは陶芸というよりも手工芸というほうがふさわしく、ゆるキャラ的人気を狙ったアイデアではないかと思えます。
タヌキ本体には土が用いられています。目も土ですが、輝きを持たせるために目だけには釉薬がかけてあります。このあたりまでは焼き物であっても、組紐の技術を生かしたおさげ髪を頭にのせて、あとは作品個々が必要とする手芸をほどこしてあります。
魚をぶら下げているALUKILIKOがかわいかったので買いました(1500円)。「よくあれを買ったわね。かわいいとか言っちゃって」と妻お龍がなかば私をバカにするではありませんか。家に帰ってテレビの前に置こうとしたら、「やめて、そこに置かないで、自分の部屋にしといて」と言われてしまいました。
私はかわいいと思うのですが、みなさんはいかがですか?
ALUKILIKOブログ=http://ameblo.jp/alukiliko/
ギャラリーきりんHP=http://kirin-shigaraki.jimdo.com/
【藤陶 自然採光を生かしたディスプレイ 実用性重視の品揃え】
藤陶は、山を切り拓いた住宅用造成地にあります。見晴らしのいいロケーションを大いに生かして、大きなガラス越しに信楽の山々を借景としつつ、自然採光を生かした商品ディスプレイが施してあります。
業務用食器を主力に据えているだけあって、見栄えがよくてかつお手ごろ価格の品物が揃っていました。「2階は作家品です(値段がひと桁上がりますよ)」という店が多いなか、藤陶の2階は商品倉庫です。その倉庫内部も買い物客に解放されていて、ラックに整理されたおびただしい数の食器類を物色することができました。そして、3階は、1階同様、商品展示スペースに充てられています。
店のスタッフは商品発送で忙しいのか、接客に割く時間的余裕がない様子でした。その分、客はマイペースで品物を見て回れます。説明を要するほどの高級食器を買うつもりはありませんでしたので、私たちにはかえって気楽な環境でした。
藤陶HP=http://fujito-utsuwa.co.jp/
【なか工房 作家中村文夫のギャラリー 塩釉独特の味わいを知った】
信楽の陶器販売店には大きく分けて3つのタイプがあると思います。決して正確な知識に基づいた話ではありません。私の感触では3タイプに分かれるという程度で聞いておいてください。
★大規模陶器店・・・食器のみならず陶製品全般を手広く製造・販売する会社が運営する大型店舗。自社製品を直売する「窯元販売」はもとより、有名陶芸家や若手陶芸家の「作家品」も販売。価格帯も作風も幅広い。
★ギャラリー型陶器店・・・自らは陶器を製造せず、もっぱら仕入れ商品を販売。ギャラリー用空間を設けることが多く、作家品の展示即売を行う。展示即売の作家は定期的に変わる。新しい感覚の陶器を探すときなどに重宝する。
★窯元併設店・・・個人経営の窯元が自作品の認知度向上を兼ねて商品を展示。血縁関係や友人関係の窯元品も並べてあるが、中心は自らの作陶品。商品の特質についてじっくり話を聞きながらこれぞという逸品を選ぶことができる。
なか工房は、この日初めての窯元併設店でした。実用性重視の調理器と、工芸性の高い器が並存していました。実用性重視のほうは、同工房のネット通販で紹介されているように、耐熱鍋や耐熱陶板、あるいはコーヒードリッパーなどです。いっぽう、工芸性の高い食器は「塩釉」という技法を用いた大皿や壺です。
店の奥さんによりますと、塩釉というのは、焼き上がるタイミングを見計らいながら穴窯に塩を投入する技法だそうです。塩が釉薬の代役を果たして素地と融合し釉薬をかけた作品とはまた趣の異なる仕上りを得ることができるとのことです。「こういうひび割れたような感じも塩釉の特徴です」とおっしゃっていました。
岩塩が豊富な西洋では古くから塩釉が一般的だったそうで、土のなかの珪素と塩のナトリウムを結びつかせたコーティングだといいます。
ただし、塩を投入するのですから、電気窯ではもちろんやれません。大きな登り窯で量産を図る焼き方にも向いていません。そうなると穴窯がもっとも適しているそうです。なか工房にはその穴窯がありました。
いろいろ話を聞かせてもらって店を去ろうとしたとき、ネコのマロちゃんが散策から戻ってきました。マロちゃんは人なつっこいから、しゃがんでカメラを構えたらすぐに近づいてきて、私の膝でスリスリを始めます。しかたないから、日陰で昼寝に入ったところを写しました。
なか工房HP=http://plaza.rakuten.co.jp/nakakoubou/
【清庵 古谷信夫がデパートの半値以下 おしゃべり好きのオヤジさん】
「粉引(こびき)」の白い器にこだわる古谷信夫氏の食器を数多く品揃え。それが清庵の自慢です。「粉引」というのは、素地に白泥をかけて薄めの釉薬で仕上げる技法です。
食器のネット通販をざっと見ましても、古谷信夫を扱っている店が多数あります。デパートにも定番的商品として並んでいますので、ちょっと食器に詳しい人ならば「ああ、あれネ」と分かることでしょう。料理をおいしそうに見せる力があるからか、テレビの料理番組にも使われます。
うちはデパートの半額からさらに1割引だと、ご主人が繰り返し強調します。あの古谷信夫がうちならこんなに安く手に入るというわけです。商品棚の向こうから次々と雑誌を持ってきては、ほれここにも古谷信夫の器が使われていると、どんな料理とも相性がいいことを「見せる資料」として示してくれます。
お龍はあの店の売らんかなたっぷりの姿勢が嫌だったというのですが、私は違います。あれはしゃべらんかなたっぷりの姿勢です。本当にものを売りたかったらあんなにはしゃべりません。たまたま客の少ない日だったのか、店の自慢を聞かせる相手が欲しくてしかたなかったのだと思います。でも、その自慢話のなかには知らないこともいっぱい含まれていました。様々なキャラの店主の様々な話に耳を傾けるのも店めぐりの楽しさじゃないでしょうか。
古谷信夫氏は信楽生まれの信楽育ちです。外からやって来た人材に陶芸作家の色合いが濃く、地元生まれの人材には職人や生産者の色合いが濃いという傾向があります。地元の古谷信夫氏も、地場企業の担い手として2000種類を超える実用食器を武器に全国展開を図ってきました。
作家が焼く信楽焼は、概して野趣が強いというのか、一筋縄ではいかないところがあります。古谷信夫氏の食器からはそうした使いにくさが排除されています。料理との相性においてストライクゾーンが広い。アート味のあるデザインを保ちながらも実用域をはみ出ることがありません。商品の魅力度アップを期して信楽以外の土もブレンドされています。顧客満足度優先のポリシーが商品力を高め、売れるべくして売れているのだといえます。
幅広い顧客層に人気の高い古谷製陶の品物を安く豊富に揃えている店だということで、清庵は広範囲の個人客や飲食店から注目されています。ご主人はそれも自慢していました。
ただ、私たちはいつでも好きなときに信楽に行ける立場だけに、ここまで一般的になりきった古谷信夫を買って帰るというのでは逆にもの足りない気がしました。
今回、信楽を歩いていろいろな食器を見るうちに、古谷信夫食器の普通さ加減がいやでも伝わってきました。そんなこともあってか、清庵の品揃えを「どれもいいなあ」の気持ちで見ている割には決定的な食指が動きませんでした。
逆に言えば、古谷信夫を売りたいから古谷信夫づくしというやり方では売れにくいのかもしれません。信楽臭い陶器に混じってポンと置かれているくらいのほうが、古谷信夫食器のよさが際立つのではないでしょうか。
清庵HP=http://seian.cocolog-nifty.com/
【明山窯Ogama 信楽らしさを残す町並みで喫茶タイム】
陶器販売店は国道307号線沿いに揃っていますが、その国道をいっとき離れて窯元散策路に寄り道してみました。
散策路はすべて坂道です。坂道につけられたろくろ坂、ひいろ壺坂などの名称は観光客向けでも、その坂道沿いの景色は昔ながらの信楽です。信楽焼の窯元の多くは、陶器工房と住居が至近距離に位置する職住接近型です。そんな窯元の控えめな看板が坂道に顔を出しています。
明山窯が経営するOgamaという店でコーヒータイムにしました。
店のすぐ隣には登り窯があります。この窯が稼動をやめて以来、周辺が雑草に覆われ荒れ放題だったそうです。その窯を貴重な資料として活用すべく、Ogama建築時に修復を加え整備しなおしたといいます。
その登り窯を使って、第2回信楽まちなか芸術祭(10月1日~20日)のポスター用写真の撮影が行われていました。期間中の道端を飾るタヌキを登り窯のそばに立てての撮影ですが、「そのタヌキ、もうちょっとこっち向けて」などカメラマンから細かな指示がとびます。
実は、この記事の冒頭にある写真は、そのカメラマンが写した登り窯の構図を模倣しました。どなたか、あのカメラマンの知り合いの方がこれを読んでおられるようなら、マネしとったぞと告げ口しといて下さいね。
明山釜OgamaのHP=http://www.meizan.co.jp/ogama.html
第2回信楽まちなか芸術祭=http://shigaraki-fes.com/
【みのる窯 京子スマイルに癒される 夫は作陶 妻は陶芸教室】
みのる窯は、松川実・京子夫妻の製作工房に併設された販売所です。落ち着いた表の造りですが、奥さんの京子さんが出てきた途端に店の空気が変わりました。京子さんのにぎやかなトークからあふれ出す人なつっこさが一気に客を和ませます。
うちの店知らせといてやーという京子さんのご意向に沿って、まずはアクセスサイトを書いときます。
HP=http://www.eonet.ne.jp/~minorugama/
ブログ=http://ameblo.jp/minorugama/
そして、京子スマイルです。全開時はこの3倍くらい笑います。
ご主人の実さんは奈良県天理市生まれで作陶のために信楽に移住してきました。著名な陶芸家である神崎氏の下で修業を積んだ後、窯元として独立しました。そうした男性作家が地元信楽の女性と結婚するのが信楽ではひとつのパターンとなっています。みのる窯夫妻もその例にもれません。
京子さんは、陶芸家であると同時に陶芸教室の先生でもあります。どっちかいうと陶芸教室のほうが得意かなという自己評価が語るように、気さくな京子さんに習いたくて京阪神から通う生徒も少なくありません。
お茶とお菓子まで出してもらって、1時間くらい世間話をしてきました。話し相手が私だけに、陶芸家や先生の側面を見せても値打ちがない。すっかり信楽のおばちゃんに戻っていました。
「なんでFacebookやらへんの。おもしろいのに」ということでしたので、京子さんのページを検索してみました。以下のURLです。すごいな。滋賀県知事嘉田由紀子さんとお友達ですか。http://www.facebook.com/kyoko.matsukawa.90?fref=ts
みのる窯サンクスカードというのをもらいました。<ご来店者限定特典>と書いてありまして、「次回、当カードご持参で1年間何度でもリピーター様お楽しみをご用意してます!」とのことです。
店の外の棚には特価品が並んでいました。お買い得大好きな妻お龍が、1800円の皿を買いました。
タヌキの整列は、大型店舗に共通の光景です。ちなみにタヌキの値段は15000円~40000円です。
一日の仕事を終えた大店の旦那さんが小僧に命じて酒を買いに行かせる。空のとっくりと、掛売りを記録する通帳(かよいちょう)を持たせる。信楽のタヌキはそれをモチーフにして生まれたのだと澤善で聞きました。
信楽のほとんどの店は食器を売っている意識に乏しいとお龍が嘆きます。焼き物という感覚なのよねえ、と。
そんななかにあって、澤善は食器を売る意識が高い店だと思いました。料理を盛り付けた写真が商品の隣に飾られているからです。そのディスプレイ法は、私たちが知るなかでは澤善のみです。
清庵のご主人も料理雑誌を見せる資料にしている点で、食器を意識した売り方だと思いました。でも、自分の料理で器との組み合わせを試してみてこそのセールストークが澤善にはあります。
そんなことを思い返しているうちに、素敵さや楽しさを売っているのだという意識が信楽の陶器店には不足しているのかもしれないと考え始めました。器類があまりにもメシの種になりすぎてしまって、単なるモノにしか見えないのでしょうか。もしそうなら、そこに客心理とのギャップが生じそうです。
今年の信楽には県内客が増えている印象があるそうです。「澤善☆幸せ応援プレゼント抽選会」の当選者に県内住所が多いからだといいます。県内からの観光客が増えていないことにはこういう結果にならないだろうと、澤善は考えています。
県内客が増えるのはいいことだと私は思います。転勤を繰り返してきた結果、信楽のような焼き物の町にそうそう出会えないことを知りました。その存在意義が地元に浸透してゆくのは好ましいことです。
思い返せば、実家でも、親戚や友人でも、信楽焼の茶器や食器を愛用してる家庭の少なさ。日本有数の焼き物産地を身近に控えながらどうしたことでしょうか。
大津、草津、守山などに移り住んでくる他府県人が増えているのを追い風に、食器を楽しむ提案がもっともっと信楽から発信されてもいいと思います。新しい住民のほうが多くなった現在、地元は信楽焼のことをある程度分かっているという発想が的確でなくなってきました。滋賀県の人口増加曲線が語ります。あまり知らない人のほうが多いゾと。
その分、新しい商機はあるはずです。
信楽の隣町である水口町に生まれ育った私は、どこか眩しい町として信楽を眺めていた記憶があります。信楽にだけは帝産バスが走っていました。帝産バスは大津や京都のバスでした。水口町から見ればはるか山の向こう側にある京都や大津ですが、信楽だけはダイレクトにつながっているようで、無視されていないようで、このあたりにあるまじき光景だと感じていました。
子供時代の心境を「文化度」という言葉で表現すればいいことを、大人になってから知りました。信楽に対するその敬意は、いまも変わりません。
澤善HP=http://www.sawazen.com/index.html
おさちゅんさん、こんばんは
返信削除としおです。
なかの綾さんの記事、興味深く読んでたんですけど(^ν^)
消しちゃったの?
としおさん
返信削除こんにちわ。
綾ちゃん、なかなかよさげでしょ。
「編集」と「削除」を間違えてクリックしてしまいました。
うわっと思ったときにはもう遅くて。いま、中味を思い出しながら、再掲載分を書いてます。
もうちょっと待ってくださいね。
こんにちは 信楽の澤善でございます。
返信削除この度はご来店頂きまして有難うございました。
読ませて頂きました。
スタッフ一同励みになりました!
ありがとございます。
次回はまたレストランへもお越しくださいませ。
美味しい信楽高原地鶏をご用意してお待ちしています。
澤善様
返信削除コメントありがとうございます。
先日は男の方にご対応いただきました。
その前は、女の方でした。
今回、作家紹介コーナーで、甲賀町油日に工房を構えて信楽の土で焼いているなんとか峰さんのやきものがすごくよくて、イッパツでファンになりました。
次回はレストランにもお邪魔します(十割蕎麦の夢創庵ばかり行ってます)。
信楽はものが豊富すぎて、お店もお客も品数をもてあまし気味状態だと思います。
やきものに値段をつけて並べるだけの店舗形態になりがちなのはいたしかたないところですが、澤善さんはそんななかでも一品ずつの魅力を伝えようと努力されてるのだなあと思いました。
これからもよろしくお願いします。