2012-01-02
番外編:丹波黒豆煮、田作り、柿なます
元日、妻お龍が、またキッチンに立ちました。還暦の歳になっても女房はキッチンに立ちますが、亭主はチンが立ちません。
お龍は、黒豆を煮るかたわらで柿なますとたづくりをこしらえようという算段でした。
丹波篠山の黒豆です。丹波篠山の農家から直に分けてもらいましたので、2kg3000円という破格の安さ。そのかわり、選別作業をしていません。買ったままですと豆の見かけが玉石混交です。お龍が自分でより分けました。
黒豆についてきたレシピにしたがって煮汁をこしらえ、鍋で沸かします。沸いた煮汁のなかに洗った豆を入れました。落し蓋かわりのキッチン・ペーパーを被せて煮ます。
「私はこのお砂糖を使ってるの」と、お龍が空き袋を出してきました。古式原糖というそうです。魚の埴輪みたいなのは、古釘のかわりに煮汁に入れる鉄です。うちのヨメさん、弥生時代か。
弥生時代じゃないわよとばかりに、お龍がシャトル・シェフという鍋を出してきました。豆を20分か30分煮たら鍋を火から下ろして、あとはシャトル・シェフ内で保温しとくそうです。それだけで煮続けたのと同等の調理効果があるといいます。
火から下ろした鍋をシャトル・シェフに収納したのが午後1時30分。ここから夕方まで、5時間をめどに、保温し続けます。
「たづくりはどうしてたづくりというのでしょうか?おとうさん、知ってる?」とつぶやきながら、お龍がカタクチイワシを炒り始めました。
むかし、むかしね、田んぼの肥料にイワシをまいたことがあったんだって。そしたら、その年はお米が大豊作だったんだって。それ以来、イワシのことを田作りと言うようになったんだって。
パリパリになるまで炒ったカタクチイワシをいったん冷まします。私もお龍もクリスピーな田作りが好きですから、強めに炒り上げました。
お龍は絡め汁をこしらえ始めます。絡め汁を箸の先にちょっとつけて、箸を開いたり閉じたりしながら粘り方を慎重にチェックします。水飴のような粘りが出すぎたらカタクチイワシどうしがくっついてしまいます。私もお龍も1匹ずつバラバラに分かれた田作りが好きです。
そのためにはとにかく手早くやらなくちゃいけないの。
手早さを心がけて仕上げた田作りでしたが、鍋から出してみたらくっつきまくってました。皿の上で立体オブジェを形成するほど。おまえは箱根彫刻の森美術館か !
「だいじなところで写真もう1枚とか言うからだよ。写真なんて撮ってないでさっさとやってたらうまいこといったのに」とお龍。
えらいすまんことでしたな。邪魔しましたな。
柿なます作りが始まりました。野間亭の田渕さん夫妻が雪の畑から抜いてきた泥つき大根と、寒い土間で藁に寝かせておいた干し柿。そして、お酢は、ランチハウスリリーのマコちゃん夫妻が自作した柿酢です。
もらいものでないのは人参だけ。惜しいことをしました。人参にも能書きたれたかった。
柿酢をベースにした甘酢。お龍はそこにまず干し柿を入れました。「こうしたほうがいいような気がするのよ」とお龍。次に全部の材料を一体化させて甘酢をよくなじませます。
そして、できあがった柿なます。「これをひと晩寝かしておきましょう」とお龍。なんや、すぐ食べられると思うたのに。ちょっとつまみ食いしてみましたら、食材どうしがお互いを立て合って、いい味になっていました。
夕方6時半になりました。シャトル・シェフからいったん黒豆を取り出す時刻です。
取り出した黒豆の鍋を、また20分~30分程度、火にかけます。シャトル・シェフの保温機能にも限度がありますから、こうしてときどきしっかり加熱する必要があります。そして、またシャトル・シェフに戻します。
この作業を、お龍は4回繰り返しました。2回目以降は、シャトル・シェフ内で2時間→火で加熱30分→シャトル・シェフ内で2時間→火で加熱30分→シャトル・シェフ内で2時間→火で加熱30分というインターバルにしたそうです。
何回やらなくちゃならないってことはないと思うの。私は、やわらかさとか味の染み込み具合とかをみて、まだ足りないなあと思って繰り返していくうちに4回になっただけのことよ。
これでよしの状態になった黒豆を、今度はシャトル・シェフには入れないでひと晩寝かしました。
そして、さっき、お龍が器に盛ってきました。
なんと、ふっくらつやつや。豆の表面をよく見ますと、部屋の景色までが映りこんでいます。
シャトル・シェフを使ったらこのような仕上がりも容易だそうです。鍋を弱火にかけ続けるやり方ですと、煮汁が蒸発して少なくなっていきます。そのため、豆が固くなって皮にしわもよりやすいのだそうです。皮にしわを作りたくなくて、以前は土井勝さん方式で煮ていたとのことです。
シャトル・シェフは加熱じゃなくて保温だから、それでふっくらつやつやに仕上がるんだと思うわ。
へえ、そうなんかあ。おまえの顔もシャトル・シェフに入れといたらどないやねん。
いや、いや、言うてませんよ、そんなこと。思うただけです。
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