2010-09-17

今中商店 宮津市 鮮魚 「サザエのふた」


 サザエのふたをとるのはむずかしい。

 従姉妹の亭主がサザエのふたとりの達人。
  親戚が集まる夏のバーベキューで重宝していた。
  ところが、今年のバーベキューを待たずして、二人が離婚。
  ふたとり達人不在の夏となった。

 彼は小さな果物フォーク一本でいともたやすくふたを開けた。まったく力の要らない一点がふたのどこかにある。そこ以外にない。そういう説明だった。
 「どこをつついてほしいかな」と口ずさみながら彼はリズミカルにちょんちょんとふたをつつく。次の瞬間にはサザエの中身がツルンと皿の上に落ちている。その皿を誰かに回す。冷酒をクイと空ける。次のサザエにフォークを向ける。
 その指が長くて細かった。洒脱だった。その浮世離れしたところが離婚につながった。
 身近で離婚の内幕を見てしまうと、離婚とは惨めさを受け入れる決断なのだとよくわかった。

 彼がいない今年、もうサザエはいらないと考えた。
 しかしながら、彼の娘(16歳)はサザエが大好きだ。彼女は母親の下に残った。だから今年もバーベキューの一員だが、サザエの壺焼きを食べたいと私に頼んできた。私の考えすぎかもしれないが、その気持ちのどこかに父への思いが隠されていそうな気がした。

 なんだかしらないが、私は使命感に燃え始めた。
 夫婦は破綻したが、父と娘の間には別れるべき理由がなかった。
 手抜きは許されない、おいしいサザエを手に入れなくてはと、ひとり肩に力が入ったのだった。
 
 ということで、今中商店につながってゆく。

 社長ご夫妻の息子さんは、いま中学3年生で今中理貴君という。「今中理貴」と入力してインターネット検索してみてほしい。ちゃんとヒットする。理貴君がダンスや歌の芸能活動をすでにスタートさせているからだ。
 その理貴君と私の会社の同僚の娘さんが、3年1組の同級生だ。そのよしみもあり、今中社長直々にご対応いただいた。理貴君のパパは長靴を履いたイケメンだった。
 ずらりと並んだ鮮魚や干物。パックされていないむき出しの魚はそれだけで迫力がある。魚の向こう側には、理貴君のお爺ちゃんたちが立っている(どうかな、お爺ちゃんは居眠りしていたかもしれない)。
 サザエは専用の水槽で生かされていた。それを秤り売りで買う。
手抜きの買い物はしていないぞの充実感。クール宅急便の伝票の送り先もきちんと丁寧に書きたくなる。
 そして、バーベキュー当日、みごとにそろった壺焼きサイズが金網を飾るはこびとなった。

 おいしかったのはいうまでもない。やわらかさにも驚いた。
 私の母は88歳でもちろん入れ歯だが、このサザエは噛めた。切り分けてもらった壺焼きを口に運びながら、「噛める、噛める、カメルーン」とアホなギャグを言っていた。

 サザエを望んだ16歳も「このサザエはおいしい」と言ってくれた。彼女の同級生で幽霊が見えるという寺の娘も来ていた。「お友達でいましょう」と彼女から通告された男子も来ていた。3人が3人ともサザエを喜んでくれた。
 サザエのふたとりの件は取り越し苦労だった。甥ッ子がけっこう上手だった。従姉妹の元亭主に比べるとまだまだ力技だが、充分実用に耐えた。

 

 あのバーバキューの時点で、私はまだこのブログを初めていなかった。写真をろくに撮っていなかったので、今中水産に出かけ直して店の写真を撮らせていただいた。

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