F51同期会だと連絡がきまして、梅田のかっぱ横丁へ出かけてまいりました。F51といいますのは、フジサワ薬品工業株式会社昭和51年入社という意味です。
フジサワ薬品工業はとっくに消滅し、いまはアステラス薬品になりました。この年齢を迎えるまでにみんな仕事も居場所もバラバラになりました。そんな変化にもかかわらず、生きてるだけでオッケーの絆がいまも続いています。
【おかんの1万円札】
うちの母親は、何かあったらすぐ1万円札や。これで買うてきて言うて1万円出しよるねん。買うてきてって、買うのは安いもんやで。何百円とかそういう買い物や。そやけど、1万円札を渡しよるねん。あれは、なんやろ。金の計算が面倒くさいのか、もうボケてしもて計算でけへんのか。
Y君が言い出しました。
え!やっぱり、おまえんとこもそうか。
そやろ、そやろ、うちもそうやねん。
私の母親もそうです。ヘルパーさんにティッシュの買い物頼むだけでも1万円札を渡します。
「家の中に小銭ジャラジャラやろ。そやのに1万円札やろ」とT君が言えば、どこの家も同じようなことなのか、みなが「やっぱりなあ」の顔つきを見せています。
そやしな、釣りは全部俺の小遣いや。
そう言うのはS君です。
S君のお母さんは、1万円で余ったお金をくれるそうです。彼は早期退職しいまは何も仕事していません。今日もお母さんに買い物頼まれて、そのおつりがあったおかげで飲み会に来られたのでしょうか。
息子が60歳ですから、どこのお母さんも85歳から90歳くらいにはなっています。誰の頭にも、子供の頃は10円もらうのもタイヘンだったという記憶があります。ときにはドケチにすら見えたというのに、その母親が年老いて、いまはちょっとした買い物にも1万円札を渡そうとする。
うちの場合は、私の姉や妻お龍が、なんでもかんでも1万円の母親を責めるがごとくにさとします。が、私は、そんな風にふるまえません。身内である姉や妻よりも、いまここにいる同期の連中と話しているほうが心情を分け合える気がします。息子が老母を見る心境は似たり寄ったりということでしょうか。
こういうときの息子というのは、言い出そうとした言葉を抑えているもんじゃないでしょうか。おもしろくもあり、かなしくもあり、言葉を抑えるというのでもなくて、言葉にできない自分を見つめているといったほうが適切な気がします。
【ええかっこして、介護認定で損をする】
1年前、このメンバーで山形県銀山温泉へ旅行しました。当時は、うちの両親が有料老人ホームのあれこれでしたが、N君はまだそれほど切羽詰った様子ではありませんでした。自分のションベンの切れがわるくなったというのが、彼の懸案事項でした。
しかし、1年経ってみれば、そのN君が、両親を老人ホームに入居させるべく、いままさに介護道を歩み始めています。彼の口からは介護福祉制度の専門用語がポンポン飛び出します。だいぶ勉強した様子です。それだけで苦戦ぶりが伝わってこようかというものです。
ケアマネさんが来てくれはるやろ。本人にいろいろ質問しはるわけや。家族の方は黙っていて下さいねということやし、俺ら黙ってるやんか。
ケアマネさんが聞かはるねん。買い物はおひとりでされてるんですかとか。
そしたら、うちのおかんが、昨日もスーパー行って来ましたと答えるわけや。何言うてるねん、それ何年前のことやと思うけど、ご家族はどうか黙って見ていてくださいって言われてるやんか。
介護保険料は高齢者に達する前からみんな払い始めます。実際にこの制度のお世話になるのは、腎透析などの病気を除けば年寄りになってからです。ただし介護サービスを受けるためには、ケアマネ(ケアーマネージャー)による要介護度判定が不可欠です。その高低によって受けられるサービスが違ってきます。
たとえば、認定度によってヘルパーさんに日常生活を助けてもらえる内容が異なってきます。あるいは、特別養護老人ホームに入居資格を例にとれば、要介護度1以上と決まっています。ただし、要介護度が高ければ高いほど入居の優先順位が上にきますから、待機老人40万人の実情下、要介護度1程度ではまず入居できません。
N君にしてみましたら、ありのままの母親の自立度をきちんと評価してもらって、少しでもヘルパーさんに助けてもらえるのなら有難いと考えています。しかし、お母さんは、まだまだ自分でなんでもできることをアピールしたがります。ケアマネさんの前でかっこつけたら、自立度が高い高齢者との評価につながり、もらえるはずの介護度判定をもらえなくなります。
けれども、親は親で、見栄があります。他人さんからはしっかりした年寄りだと思われたいわけで、実力以上に自分を見せたがります。
ケアマネさんは「昨日は何を買い物されたんですか?」と質問を重ね、お母さんが野菜の種類を答えると「そうですよねえ、いま夏野菜がちょうどおいしい時期ですからねえ」と相槌を打ちながら、何かの用紙にボールペンで印をつけていくそうです。なにげないやりとりのなかでいくつも質問を重ねていけば本当に買い物に行ったかどうかが分かってくるんだな。N君はそう思いながら見ていました。
そのうちにケアマネさんが、「牛乳はどうですか?買われましたか?」と質問し、お母さんが「はい、牛乳は好きですから」と答えたそうです。次のケアマネさんの質問が鋭かった。「そうですか、牛乳は一本いくらしましたか?」。
これでもう母親のウソも台無し、ええかっこしていたことが見抜かれるとN君は思いました。しかし、お母さんがその上をいく答です。
さあ・・・、いつもまとめて何本か買いますし、一本ずつは覚えてませんわ。
それ、あかんねん、ええかっこしたら、介護度がきちんともらえへん。うちの母親は、そこはかしこいで。
そう切り出したのはS君です。彼のお母さんは、ケアマネさんとの一問一答を、必ず「死にそうです」の言葉でしめくくるそうです。
なんか聞かれたら「死にそうです」。また聞かれたら「死にそうです」。とにかく「死にそうです」ばっかり。ほんま、そればっかりや。
そのいっぽう、S君のお姉さんのお姑さんだったか誰かは、なんでも自分でやれることを強調しすぎたあまり、評価が要支援以上に上がらなかったといいます。実際はそんなピンピンしていないのに、です。
【いずれは我が身か】
いまは親のこと言うてるけどな、我々も年とったらわからんで。なんでも自分でやれますと言いたがるかもしれんぞ。
誰がそう言い出したのか。T君だったかO君だったか。
「そうやなあ、そうなるかもしれんなあ」と、みんなが合点です。
おまえはどう答えるつもりや?ケアマネさんから、ひとりでできますか?と聞かれたら。
N君が私に尋ねました。
え、俺か? そら、ひとりでやってますと言うぞ。昨日もマスかきましたて言うたるわ。
「アホか、おまえは」というようなことになりまして、話は来年の旅行に移っていきました。
50代の頃毎月の飲み会で、血圧がどうの、血糖値がどうのと、中には自分の検査結表を持参、数値の高いのを自慢していた人は皆さんもうお会いしません。
返信削除60台では奥さまへの感謝と依存話。親の介護となりました。
今や介護を受けている方もおりますし、現役で会社の専務をしている方もおります。
飲み会は発散するに良い場でした。今は全く誰も集まろうと言いません。
集まれる間は是非集まられて下さい。心が開放されます。
相子さん
返信削除おっしゃるとおりです。
集まれるうちに集まっておかないと、誰がいつポックリいくか分かりません。
実際、この仲間でもすでに二人があの世へ行きました。
来年2月には、コウバコガニ季節の金沢へみんなで旅行します。
「元気なうちに集まる回数を増やそう」とみんなで決めました。