2013-06-08

出石(兵庫県豊岡市):川崎尚之助に誘われて

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 みなさん、NHK大河ドラマ「八重の桜」を視てますか?

 視聴率がパッとしないそうです。一説によれば、史実に忠実であろうとする余りにドラマが分かりづらくなっているからだといいます。焦点が八重や会津に合っておらず、歴史を追いたいがために物語の舞台があちこちに移動しすぎる。1週見逃すだけで筋道についていけななくなると、その説は分析します。

 私は、逆に歴史の進行に重きを置いたドラマ展開が好きで視ています。会津側に立った歴史描写は半藤一利氏の「幕末史」とも重複します。いやでも薩長のうす汚さが目立ち、そこを小気味よく感じています。

 今日は、八重の夫であった川崎尚之助の出身地出石を、ちょっとだけ散策してきました。兵庫県豊岡市出石町(いずしちょう)です。そうです、ご賢察の通り、皿蕎麦で有名なあの出石町のことに相違ありません。


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【尚之助と八重は生き別れの後に死別】

 ドラマをごらんになっていない方のために説明しますと、ドラマの中の八重はまだ新島襄と結婚していません。現在の夫は川崎尚之助(上の写真)です。それを長谷川博巳が演じています。「八重の桜」公式サイトからNHKの登場人物紹介をそのまま抜き書きしますと、

 但馬出石生まれ。蘭学と舎密術(理化学)を修めた若くて有能な洋学者。江戸の佐久間象山塾で知り合った覚馬にほれ込み、蘭学所の教授になるため会津へやってきて、山本家の居候となる。覚馬は、尚之助を藩士に取り立ててほしいと願うが、保守的な藩の老臣たちはそれを退ける。そこで覚馬は、尚之助が八重と結婚し山本家の人間となれば、仕官の道は開けると考え、2人を結婚させる。兄妹のような関係だった八重との夫婦生活は、小さな出来事の積み重ねの中で、少しずつ夫婦らしい感情も芽生えてくる。鶴ヶ城籠城戦では八重とともに大砲隊の指揮を執って戦う

とあります。

 私は、「歴史よ、二人を引き裂くな」、「薩長は戊辰戦争なんて企てるな」と願っております。ほんと、ずっとそのままでいさせたいほどカワイイ夫婦です。
 しかし、今後の展開で、尚之助と八重は、戊辰戦争後の混乱による生き別れ→尚之助の死による死別の道をたどる手筈になっております。



【尚之助の墓が出石町の願成寺にあった】

 尚之助の出自は長きにわたって不詳だったそうです。2012年5月といいますから、ついこのあいだのことですが、歴史研究家あさくらゆうこさんたちの調査によって、どうやら出石が出身地らしいと判明したそうです。

 判明の決め手は、出石町東條の願成寺に残る墓籍台帳でした。願成寺は、出石藩の下級藩士であった川崎家の菩提寺です。墓籍台帳を手がかりにして、「川光院清嵜静友居士」という戒名を刻んだ墓碑が、どうも昭和40年あたりまでは願成寺墓地内にあったらしいことが分かってきました。

 墓碑に刻まれていた「川光院清嵜静友居士」が尚之助の戒名と一致すること、そして墓碑には尚之助の死没年月日と同じ日付が記されていたことから、まずあれは尚之助の墓で間違いなかろうと結論付けられたそうです。

 大河ドラマがなければ、川崎尚之助なんてまったく知りませんでした。時代の先端をいく洋学者だったようですが、歴史の表舞台で動いた人物ではありません。歴史家の篤志的調査結果によって出石町ゆかりの人物であったことが判明し、そして、それに続く大河ドラマが尚之助をにわか有名人に仕立て上げました。

 今日の到来を予測だにしなかった川崎家はすでに出石を離れ、香住に移り住んだそうです。代々の墓もそちらに行ったようだと地元の人から聞きました。川崎家だったとされる家は、現在は化粧品店になっています。出石観光の核心ともいえる出石城址近く、蕎麦屋が軒を並べる小路にその化粧品店がありました。

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【願成寺の達磨大師】


 臨済宗・願成寺は風格のあるお寺でした。山門には木彫りの達磨大師がずどんと鎮座し、その姿が何よりも印象的です。誰しもこの達磨大師に目ばかりではなくて心も惹かれるのか、出石の観光ポスターにも起用されています。うちの妻お龍にも真似してもらいました。見てください、達磨大師といえども、やっぱり若い女性相手のほうが顔がニヤけてます。

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 願成寺山門向かいには、新たに尚之助の供養塔が建設されていました。こちらは「八重の桜」にあやかるのが目的の観光用です。
 それでもファン心理というのはミーハーなもので、バカにされてもしかたないこの供養塔がなんだかありがたい。綾瀬はるか演じる八重を大写しにしたポスターが供養塔の下に飾られています。それを見て、二人一緒でよかったなあと語りかけたくなる。

 しかし、これから八重は新島襄と結婚する。新島八重としての人生が始まる。それが年末までかけて描かれるというのに、私のような熱心な視聴者をここまで八重・尚之助夫婦のファンにさせてしまう、こうなったら新島襄なんかどうでもいいと思わせてしまうなんて、ドラマ作りの失敗だと思われませんか。

 ことほどさように、川崎尚之助の知られざる魅力がドラマから伝わってくる。「家政婦のミタ」で駄目パパ役にハマっていた長谷川博巳が、今回は歴史に翻弄された男を演じきっている。たった14%程度の視聴率はマジっすかと、「?」の気持ちを禁じえません。

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【素朴な名刹 宗鏡寺(すきょうじ)】


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 願成寺に隣接して宗鏡寺がありました。
 たくあん漬けの考案者ともいわれる沢庵和尚が400年前に再興した寺だと伝えられています。沢庵和尚もまた出石の人であり、いまでいえばUターン組のひとりとして、荒れ放題だった郷里の寺を復活させたことになります。したがって、この寺の通称は沢庵寺です。

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 この寺には、尚之助の祖父が寄進したとおぼしき燈籠があります(上の写真)。
 それだけをもって尚之助と関連深い寺だとする出石町も出石町だし、燈籠の特別拝観を名目に料金300円を設定する寺も寺だし、ふんどしでも羽衣に見える観光客も観光客です。

 けれども、そんな俗世とは縁を断ち切るような形で、宗鏡寺には独特の風雅と存在感が漂っていました。沢庵和尚についてほとんど何も知らない私ですが、寺そのものが沢庵和尚の人となりそのままではないのかと感じました。

 お寺の方によれば、歴代出石藩主の家系に連なる山名家、小出家、仙石家の方々による法事が近く予定されているそうです。尚之助の祖父が燈籠を寄進した寺だなんて存在価値はNHK大河ドラマから生まれた一過性のものにすぎず、寺の真価はまったく別の歴史によって支えられています。

 足を踏み入れた動機こそ尚之助つながりでしたが、庭園内をひとめぐりするうちに、この素朴な名刹を秋に再訪したい気持ちになっていました。お寺の方にそう言ったら、秋もいいけど雪の日も格別だ、15センチくらい積もったとき、とのことでした。

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【気にかけないところにほどいい町がある】


 出石は但馬の小京都と呼ばれています。けれども、実際に散策してみて京都になぞらえるのはむしろ出石に失礼かなと思いました。出石は、気にかけないところにほどいい町があるの典型例です。

 花、木、草、水、野、山と共にある町並み、剣呑なんて言葉は辞書にないような人々。ゆったり、のどかな町だと思いました。京都の変人臭さや神経質さをどこにも感じない町です。

 今回は名物の出石蕎麦を食べている時間がありませんでした。蕎麦屋さんですから閉店時間が軒並み早くて、午後5時には数えるほどしか店を開けていませんでした。

 昭和歌謡のドーナッツ盤を1枚500円で売っている店も見つけたことですし、近いうちにもう一度来ることにしました。

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たくみ工房は柳行李(やなぎごおり)を手作りする店。豊岡はいまでこそ鞄の一大生産地として有名だが、元をただせば柳行李が主産業だったとのこと。そこから変遷を経て鞄の町になったそうだ。

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観光スポットにもなっている楽々鶴(ささづる)の出石酒造。店の外と中をツバメが忙しく出入りしていた。店の奥にはワンちゃんが寝ていた。

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町中から出石城址方向を望めば、この町のシンボルともいえる火の見櫓型時計台が見える。出石では商店街の小路が何本も行き交う。

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八百屋さんでジャンボニンニクを買った。タマネギほどの大きさがある。この八百屋さんはウルトラマンのフィギュアをコレクションしている。

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鳩が逃げない。鯉は寄ってくる。そうか、ここは出石。<そば>を好むのかと寒い駄ジャレを思いついた。

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えらく大きな蕎麦屋さん。物産店も兼ねている。蕎麦が名物の土地は数あれど、ここまで蕎麦屋だらけの町が他ににあるだろうか。

2 件のコメント:

  1. 今日は
    八重の桜は見ております。とても面白く勉強になっています。八重と川崎尚之助の組み合わせはとても良いです。私は彼が普通の妻と同じでなくて良いのだと言う、そのことをとても嬉しく感じております。
    武士社会の在り様も理解できますし、江戸幕府に起きて来る変化と宮廷との関係にも、目を向けますと、実に多岐に亘るドラマですね。
    出石町の歴史や寺社の紹介 とても読み応えのある内容ですね。

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  2. 相子さん

     コメントありがとうございます。

     おっしゃるとおり、多岐にわたるドラマですよね。

     会津滅亡後はいまの魅力ある俳優たちの登場がうんと減るでしょうし、新島襄役はオダギリ・ジョーだと聞きますし、後半はしょうもないドラマに成り下がりはしないかと心配です。

     出石の話題はまだまだ表面をなでただけで、つっこみ方が足りず、もっともっと地元の方々と話さなくてはと思っております。

     天空の城といわれる竹田城址も近在ですし、ぜひともまた行かなくてはと考えています。

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