映画「カルテット!」を観てきました。4月19日から京都シネマ(四条烏丸Cocon烏丸3F京都シネマ)で上映されています。
ダスティン・ホフマンの初監督作品として注目を集めていますが、それだけではありません。いまやじいちゃん、ばあちゃんになった名音楽演奏者たちが数多く映画に出演し、老齢とは思えない技量を披露します。
主人公的俳優4人の生まれ年は1934年、1937年、1942年、1940年と、いずれも本当のじいちゃん、ばあちゃんです。さすが深い演技でした。
笑いながら泣きました。心で見た気がします。
「カルテット」の公式サイトはhttp://quartet.gaga.ne.jp/です。京都シネマはwww.kyotocinema.jp/です。
FMラジオのαステーションで、森夏子DJがこの映画を紹介していました。ダスティン・ホフマンの初監督作品だということでした。けれども、それ以上に私の動機付けとなったのは、筋書き設定でした。
年老いて現役を引退した音楽家たちが入居する老人ホームがあるといいます。その老人ホームが財政難に陥り存亡の危機にさらされている。そこで入居者たちは、ヴェルディー生誕200年を記念するコンサートを企画し、その入場料で自分たちのホームを救おうと決意します。
みんな現役時代はブイブイいわせた名手ばかりですが、そのなかでもとくに目玉となる演目が、ヴェルディーのオペラ「リゴレッタ」第3幕で歌われる四重奏「美しき恋の乙女」です。映画のタイトルである「カルテット」はこの四重奏を意味します。
私は、これだけの説明を聞いた時点で映画を見に行くことにしました。ですから、あとの紹介はむしろ聞きたくありませんでした。ラジオのスイッチを切りました。実際に見終えて、なんの事前学習もなしに見ても十分に感激できる映画だと思いました。感想をいっぱい書こうと思って帰ってきましたが、気が変わりました。みなさんにも白紙で見ていただきたい。
これから見に行くつもりの方もおられるでしょうし、自分を抑えて多くを書きません。
京都シネマは四条烏丸Cocon烏丸の3Fにあります。こじんまりとした映画館で、映写室は1、2、3の3部屋だけです。定員は3つ合わせても250人ほどです。大型娯楽作品で客数を稼ぐのは系列の店に任せて、Cocon烏丸館は味わい深さで絞り込んでいるように思えました。予約システムで席を確保するのではなくて単に先着順です。客の年齢層は高めでした(この日は)。60歳以上は免許証を忘れないでおきましょう。シニア料金1000円で見られます。
映画のパンフレットによりますと、撮影地に選ばれたのは、ロンドン郊外、バッキンガムシャーのタブロウにあるヘッソー・ハウスだそうです。そこに老人ホームのセッティングを施しました。ジョージ王朝様式を取り入れたというその邸宅は、周囲に広がる庭の美しさも含めて優雅でした。
田園地帯の秋景色とともに映画は進行します。美しい景色です。人物に焦点が合えば背景の秋景色がぼける、次の場面では人物にも背景にも焦点が戻る。そうしたカメラワークや、あるいは印象的な木を大写しにするフレームワークなど、映像の変化が台詞と台詞をつなぎ、とても雄弁でした。
じんわり心にきて、じんわり泣けてくる映画ですが、全体としてはむしろコメディーでおもしろかったです。老人独特のほほえましさ、こっけいさ、せつなさ、かわいらしさ、毒気のなさ。背後の席のあちこちから笑い声が何度も聞こえてきます。私も声を出して笑っています。ペーソスとユーモアってよく言いますけど、これのことかと思いました。
英国の老俳優たちの名演技にも心惹かれました。ストーリーの老人だとは思えないくらいで、本当にいる老人のようです。何もかも自分の身の回りで起きているようでした。
大きな心理変化を表現する役柄なのですが、下手な役者が演じれば、筋書きとして不自然さばかりが目立ったことでしょう。やはり名優はすごいです。不自然どころか、見る者の感情を好きに操ります。
涙が、エンドロールの間も続きました。エンドロールがよすぎまして・・・
エンドロールのうちに涙から脱却して、乾いた表情で外に出るはずだったのに、あきませんでした。見終えてから喫茶店でコーヒーを飲んだのですが、映画から脱け出すことができずにぼんやりしていました。気づいたらお金を払わずに店を出ていました。
映画を見終えて1階のこのカフェでコーヒーを飲みました。感激のあまりぼんやりし続け、お金を払うのを忘れてしまいました。駐車場まで歩く途中で気づいて引き返しました。
よかった。いい映画でした。掛け値なしです。自信をもって見に行って下さいと言えます。ダスティン・ホフマンは名監督です。
あの映画はクイーンズ・イングリッシュが話せることが配役の条件になっていたくらいで、きれいな英語が聞けるらしいぞと、あるお医者さんが言っていました。その通りでした。
老音楽家たちが入居するホームの名は「ビーチャム・ハウス」といいます。私にはビーチャム・ハウスのように優雅な住環境はないけれど、ここ我が家を、心のビーチャム・ハウスにしようと思いました。
カルテットを奏でる才能や、かつて世にもてはやされた名声なんて、私にも友人たちにもありません。それでも、たとえ悪友であっても、年老いてからの友情が若いとき以上に値千金であることは誰もが同じだと思いました。
歌劇「椿姫」の「乾杯の歌」が何度も流れていました。曲の華やかさに負けない老人たちの力強さ。
年をとるって、それほどわるくないもんですね。
パンフレット(700円)を買ってきました。音楽に関して付随する情報の多い映画ですので、買ってよかったと思っています。
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