京都駅前ヨドバシカメラで買い物した後、伊勢丹10FのThe Kitchen Salvatore Cuomo(サルバトーレ・クオモ)で晩ごはんを食べてきました。
「何にしようかな」と妻お龍。
「そんなもん、初めてクオモに来たらD・O・Cに決まっとるやんけ」と、私。
D・O・Cというのは、サルバトーレ・クオモの大傑作。世界ピザフェスタの最優秀賞を3年連続で獲得したことで有名なピザです。ほうばれば、口の中いっぱいにWhat a wonderful worldが鳴り響くおいしさでした。
この店に初めて来たときは、知り合いの男女をお見合いさせました。あのときは通常のランチ・コースでした。いま思うと、本当のコースにしたほうがよかったかもしれません。
ランチ・コースでは「口福度」が足りなかったのか、「ご縁がなかったということで」と女性のほうが断ってきました。
でも、本当の理由は、男の気配り不足です。
駅の改札口で、男はひとり勝手にIcocaでさっさと中に入ってしまいました。外に取り残された女は、まだ切符すら買っていません。こんなのを亭主にできるはずがない。女は即座にそう判断しました。
そんな男ですが、他の見合いがうまくいって、いまは結婚しています。
よかったなあ。今度は前みたいに、改札口で失敗なしか。
うちのヨメさん、定期持ってましたし。
今日は、まったくのランチタイム外でした。ランチの営業時間帯は11:00 - 16:00(LO 15:00)となっています。私たちはディナータイム17:00 - 23:00(LO 22:00)の開始早々を狙って入りました。
ランチでもディナーでも、すぐ満員になってしまう店です。とくに今日は連休前半の初日でもあり、普段の土曜日以上に混みそうでした。
伊勢丹10Fのサルバトーレ・クオモといえば、まずはカウンター席からの眺望です。大きなガラス越しに五山を見渡す気分のよさ。目の前に京都タワーがそびえていますが、タワー邪魔、かえって要らないと思うくらいのパノラマビューです。
もう少ししましたら、6時になったらですが、京都タワーのライトアップになりますし、いいですよ。もうちょっとですね。
スタッフがそう言い残してメニューを置いていきました。気分はシャンパン、そやけどソフト・ドリンク。飲める奴が羨ましい。色だけでも情熱の赤にしよう。私はブラッド・オレンジ、お龍はベリーのドリンクにコラーゲンが入ったのを注文しました。写真を撮ればどこかに必ず京都タワーが入ってしまうこの席。
まずは、いわゆる「お通し」で、トウモロコシのパンナコッタが出てきました。下の写真です。
トウモロコシと一緒に豆腐もフードプロセッサーにかけたのでしょうか、と書きたくなる舌触り。柔和なタッチはまさに泡です。プルっとした舌触りを感じるが早いかフワフワっと融けていきます。総入れ歯の年寄りが入れ歯を忘れても大丈夫。水に落ちる雪のごとく淡くはかなく、不思議なおいしさでした。
聖太郎が来たら真似して作ろう。あいつトウモロコシ好きやろ。
嬉しいことに5月3日から聖太郎がやって来ます。おじいちゃんが料理を食べさせることになっています。
下の写真はパルミジャーノたっぷりのシーザース・サラダです。
妻お龍はシーザース用のドレッシングがあまり好きではありません。けれども、パルミジャーノたっぷりという点が気になって、試しに食べてみたいと思った様子です。
試しに食べるなんて、そんなのおいしいに決まってます。私なんか、パルミジャーノで器をこしらえてそこにサラダを盛りたいくらいです。
葉っぱはレタスだけです。細かく刻んだカリカリベーコンとクルトンが上に載ってきました。皿に取り分けて食べ進むうちにドレッシングとパルミジャーノが一体化していきます。まろやかな味がレタスの葉を包みます。トロンとした性状で葉に絡みます。困ったことにフォークでクルトンが差せない。老眼。
カリカリベーコンは、オリーブオイルの中でカリッと揚げる感じで仕上げるそうです。
「パルミジャーノの臭いがないから食べやすい」とお龍が言いました。たしかにその通りです。新鮮なパルミジャーノのおろしたてが使ってあるのでしょうし、やわらいだ味を出すために、ひょっとしたらわざと熟成期間の短いものを選んでいるのかもしれません。
サラダと同時に出てきましたのは、下の写真、真鯛のカルパッチョです。野菜は、ベイビーリーフ、紫キャベツ、ミズナ、タデ、ラディッシュ。そして、めちゃ甘のミニトマト。
とても勉強になったのですが、こちらのドレッシングも酸味を抑えてあります。むしろクリーミーな甘さがあります。そして粘り気があります。鯛からドレッシングが滑り落ちません。食べる前にテーブルの上に一滴ポタリとか、そういうことがない。
私がいまいちカルパッチョを好きになれないのは、ドレッシングの酸味と滴下でしたので、こんな方法があるのかと、鮮魚料理だけに目からウロコです。富士酢のすのもの酢に卵を混ぜたら近いものを作れるかなとか、いろいろ考えながら食べました。
もうひとつ大切だなあと思ったのは、サラダにせよカルパッチョにせよ、野菜がしっかり乾いていたことでした。水気をよく切ってないと、どういうのか、なんかシラけた気分になりますよね。
パスタは、筍のアーリオ&アンチョビを注文しました。
これも勉強になりました。アンチョビ風味の出し方が特筆事項でした。鰹節を入れてないか?というくらいに香ばしいのです。筍を鰹ダシで煮てあるかもしれないとお龍は推測しています。
ニンニクやアンチョビをオリーブオイルと共に加熱するとき、私の場合は火力をもうちょっと強めにしないとよくないのかなと思いました。そしたら香りが立って風味をもっと強くできるかもしれません。そのかわりに止めるべきところで止めて焦げないようにしないといけませんが。
「お父さん、アンチョビはちょっとだけでいいのね、これを食べてると分かるわ」とお龍が言います。なんやら私がいつも入れすぎるみたいやないですか。アンチョビというくらいですから。いつもチョビっとや。
パスタを完食した後も、歯のどこかにアンチョビの細粒が残っていまして、それがときどき舌に落ちてきます。これがまた香ばしいし、ニンニクの香りがするしで、えらくおいしい。得した気分です。
さあ、そしてピッツアのD・O・C(ドック)です。
伝統的なレシピを有するピザの場合は、マルゲリータとかマリナーラとか、名前を聞くだけで材料や見かけまで分かる固有名称がついています。いっぽう、新たに考案されたオリジナルレシピにはまだ固有名がないわけで、D・O・Cも店自身のレシピに店自身が名付けた名称です。
溶けて白く広がったモッツアレラの平原に丸ごとのミニトマトがいい感じでつぶれています。8等分された一片を一気にガブっといきますと、ブチュっとミニトマトがつぶれて甘みと酸味が口の中に飛び出します。
それとほぼ同時、モッツアレラのミルキーさが塩気とも甘みとも判定しがたい味を伴って、口腔狭しと広がります。聖母の母乳を吸わせてもらえたらこのモッツアレラみたいにおいしいのかもしれません。その聖母の母乳がトマトのジュースと一体化します。
ふたつ混じり合ったおいしさが、カリっとしてモチモチのピザ生地に吸い込まれますから、飲み込み終えるまで幸せが持続します。バジルの芳香も感じます。
ピザ周辺で膨らむコルニチョーネ(額縁部)がトッピングをすべて飲み込んだ後の口中に残り、生地だけでも美味いのだとわからせてくれます。
食べているときは気づきませんでしたが、いま店のサイトを見ましたらパルミジャーノ・レッジャーノも使ってあるそうです。
D・O・Cという命名は、このモッツアレラの品質に由来するそうです。
ご承知のように、イタリアン・ワインは、生産地規定要件にしたがってD・O・C・GとかD・O・Cと格付けされます。
ワイン同様の原産地呼称制度はチーズにも設けられています。ユーロ発祥以降はD・O・Pという加盟国全域の原産地呼称制度に統一されましたが、まだイタリア国内限定の制度であった時代には、チーズにもD・O・Cという原産地呼称制度が適用されていました。
日本には国が本物とまがい物を厳格に区別する品質保護制度がありません。それだけにいまいち馴染みにくい話なのですが、雪印のモッツアレラとイタリアのD・O・C認定モッツアレラを食べ比べれば、雪印は製法だけのモッツアレラだとよく分かります。
雪印が作るなんて許されないとか、雪印を買うなんて無知とか、D・O・Cでないのはすべて不味いとか、そういう話ではなくて、「そもそもモッツアレラとは」の定義付けが国によって明確化されているという話です。
サルバトーレ・クオモの場合、うちのピザD・O・Cは厳しい基準を満たして(原産地、加工法など)生産された水牛乳00%のモッツアレラだけを使っていますよと、その点を強調し、そして訴求すべく、名前そのものをD・O・Cにしてしまったそうです。
店の宣伝には、モッツアレラではなくてボッコンチーニと書いてあります。ボッコンチーニというのは、ひと口サイズにしてあるモッツアレラ
のことです。それをイタリアから空輸で仕入れています。
ミニトマトもめちゃ甘でした。それをスタッフに伝えましたら、イタリア産だそうです。ピザ用に改良された品種だとのことで、加熱によって甘さが際立つ性格だそうです。熱くなると甘くなる。恋愛みたいなミニトマトじゃないですか。
席を立ちたくない気持ちでした。ここにこのまま居続けたら他にも何かいいことに恵まれそうな気がしました。
店の決まりで2時間以上は滞在できないことになっています。まだ制限時間がたっぷり残っていましたので、食後のスイーツを注文しました。私はメロンのズッパにアイスクリームが入ったやつ、お龍はベリーのジュースにシャンパンゼリーが入ったやつです。
双方共に、甘さをよく抑え素材本来の味を主役にしたおいしさでした。シャンパンゼリーの入ったジュースはネクターのようなトロみがあります。ゼリーによくまとわりつく仕掛けなのだと思いました。
お父さんも、次にシャンパンゼリーを作ったらこういう風にしたらいいよとお龍が言います。固形のシャンパンゼリーだけでは滑らかさに欠けて食べにくかったそうです。
帰りの電車で、おいしいものはいずれも上品さに行き着くと、お龍が言いました。先週の縄屋、吉岡さんの料理も踏まえての感想です。
上品と言うこともできますし、もう少し具体的な言い方で、過剰な味付けがなされず、実にいいところで止めてあると言うこともできます。
今日のサルバトーレ・クオモでは、折りにつけふわっと立ち上がる香りを大いに活用した味わいだと感じました。カルパッチョひとつとってみても、ミズナやベイビーリーフの香りがアクセントになっていました。
かといって精進料理のようなイタリアンでは決してありません。精進料理みたいなのはイタリアンよりもフレンチでよく出会います。主張をこめた味付けの結果を批判されるのが怖いのか、自信がないのか、もっと攻めろよ。そう言いたくなることが間々あります。
サルバトーレ・クオモは、上品ながらも決して欲求不満を生じる類の薄味ではありませんでした。カウンター席から見渡す古都の風景によくマッチしていました。それを反映してか、店の若向きな造りに反して熟年層の客がよく入っていました。熟年層からひいきを受けるのは、味ばかりではなくて接客もしっかりした店だという証でもあります。
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