多賀大社近く、国道307号線に面する「そば吉」は、人気の衰えを知らないそば・うどんの店です。
私が芹川のアマゴ釣りに足繁く通っていた頃、もう6年も7年も前から、土曜・日曜の駐車場が車で埋まる光景は変わっていません。
そんなそば吉も、午後3時にはやっと客足が引く。すべての物が長い影を落とす時間帯、妻お龍が「おなかすいた」と言い出しました。
多賀大社を出たばかりでもあり、寄るなら「そば吉」です。
店の窓から見える柿の木が気になってしかたありませんでした。
晩秋、午後遅く、斜め光線の柿。何にも負けないオレンジ色です。
柿の向こうには曲線の美しい里山。
稜線から広がり始める青空がこの時間帯独特の濃い青に変わり、そこに月が白く浮かび上がっていました。
あそこの柿の木、きれいやなあ。
女将さんに話しかけると、「あの柿ですか。誰ぁれも実をとらはらへんままですし、早いこともいだらええのにと、私も気になってます」と女将さん。毎日見ていれば少しは気にもなるのでしょう。
ちょっと撮ってくるわ。
お龍にそう告げて、私は店を出ました。
国道307号線を向こう側へ渡り、ガードレールの切れ目を見つけました。 畑のあぜ道を、柿の木に向かって歩いていきました。
液晶モニターで見ているだけでもうまそうな柿です。
背丈で届く柿に手を伸ばし、ひとつ味見してみました。
果肉は触れるだけでつぶれそうなくらいに柔らかく、皮の硬さで形を保っているだけの状態です。へたが枝に残り、その穴から甘さ満点の中味が押し出されました。
店に戻って女将さんに報告しました。
木にぶら下がったまま干し柿になっとったわ。甘い、甘い。めちゃ甘い。その後ちょっと渋いけどな。
そんな話をしたものですから、「そうか、盗りにいったのか。撮りにいくではなくて」と女将さんが思っても不思議ではありません。
お龍がお金を払うときにも、「ねえ、あの柿は気になりますよねえ」と女将さんが言いました。
旦那さん、どんな風にあそこまで行かれたんでしょうねえ。
あれ、ひょっとしたら盗りにいったことを前提の話かなとお龍は思いました。
あ、いま、写真に凝ってるんです。だから撮りに行ったんです。
「ああ、そうなんですか」と女将さん。
盗りにいきたい気持ちも、撮りにいきたい気持ちもわかってくれる。
さすがそばとうどんの両方をやってるだけのことはあります。
太打ちの大盛りを注文しました。
けれども紅葉に訪れた客の入りがよかった今日は、大盛りにできるほど太打ちが残っていませんでした。
細打ちとのミックスで大盛りにしてもらいました。
つゆには鰹の香り。歯ごたえとひとつになった蕎麦の香り。とくにお龍好みの蕎麦です。
紅葉に圧倒され、猫に癒され、おいしい蕎麦でしめくくる。
まことに奥さん孝行な一日ではありませんか。
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