前回の記事で2年連続京都府代表を目指して猛練習中の模様を取り上げ、「共栄学園は聞く人を泣かせることができるでしょうか」と書きました。泣いたのは自分たちでした。
実に残念、もらえたのはただの銀賞です。生徒の心境としては惨敗に等しい結果でした。
顧問で指揮者の嵯峨根一史先生は赤い大きなリュックを背負っての会場入りでした。代表校に与えられるトロフィーを持ち帰るためです。帰り道、トロフィーならば重くなかったでしょう。空のザックだから重かった。
銀賞といいましても、このコンクールの場合は2位という意味ではありません。審査結果が金・銀・銅のみっつにランク分けされます。今年の結果は、以下の通り。金賞8校、銀賞9校、銅賞8校でした。
2011年京都府吹奏楽コンクール高等学校B(小編成)成績表
金賞 | ||||
洛東 | 京都両洋 | 東山 | 産大付属 | 京都八幡 |
華頂女子 | 平安女学院 | 木津 | ||
銀賞 | ||||
京都共栄 | 朱雀 | 北桑田 | 綾部 | 南丹 |
東稜 | 洛陽総合 | 城陽 | 日吉ヶ丘 | |
銅賞 | ||||
東舞鶴 | 洛水 | 聖カタリナ | 亀岡 | 光華 |
乙訓 | 網野 | 桂 |
京都府代表は金賞受賞校のなかから選出されます。今年は京都両洋高校と木津高校です。
京都両洋は長年にわたって銅賞(参加賞)常連校でしたが、指導者が葛城武周さんに代わった1年目でこの快挙です。応援の父兄たちまでがおそろいのTシャツで客席を埋めました。
いっぽうの木津高校は、古屋健一郎先生が長年率いてきた金賞常連校。2年連続の府代表校となりました。
京都共栄が出場したのは演奏人員30名以下の小編成部門です。演奏人員50人以下の大編成部門では、南陽、立命館、洛南が選ばれました。大編成部門はは立命、文教女子、洛南の3強ぶりが顕著ですが、去年、今年と南陽が代表に顔を出しています。
(左上)電線に集まったムクドリのように、京都会館には吹奏楽部生徒たち (右上)コンクールの後援は朝日新聞 (左下)この日のパンフレット (右下)次の学校を待つ客席
本番直前、8月4日の練習で嵯峨根先生は私に言っていました。
先生自身が代表校のトロフィーに備えて空のリュックを背負っていったくらいです。誰もがみな代表の座を取る意気込みでいました。本腰でした。
去年のレベルまで来たと思います。あとは生徒たちが出し切ってくれたら・・・本番のステージにのまれて力を出せないとかさえなければ・・・
去年の共栄には代表になろうなんて大それた目標はありませんでした。楽しむ。これだけを目標に本番に挑みました。その結果、予期しなかった代表の座が転がり込んできました。今年は代表を取りにいきました。ところが、逆に、自分たちの音楽性を伝えようとする気迫が不足。代表どころか金賞すらもらえませんでした。勝つことの難しさです。
昨日、私は吹奏楽コンクールというものを初めて経験しました。そして思いました。
こんなんストライクゾーンのない野球やんか。
まず、小編成部門には課題曲がありません。同じ局で競い合うのではなくて、演奏曲目は参加各校に任されています。なかには数人でしか参加できない学校もありますから、課題曲を定めることができません。優劣判定が審査員の恣意に流れやすい競技形式だといえるでしょう。吹奏楽に詳しい父兄からは「今年の結果は審査員の趣味が出たな」という声も聞かれました。
渾身の一球がストライクになるかボールになるか、知るは審査員のみの競技会。ホームベースまで球が届かないような学校はべつにして、球がホームベースを通過する学校ならばどこにも等しく代表のチャンスがありそうです。事実、昨年の共栄高校はそんな形で代表になれました。共栄が代表になった昨年、負けた気になれない無念を涙に換えた学校は多かったにちがいありません。
ストライクゾーンのない野球といっても、もしここにプロの演奏家集団が参加したら優勝できるに決まっています。やはりいいものはいい。けれど、実際には高校生どうしの戦いですから実力は僅差です。どの学校も勝算は成り立ちません。全力を出し切り、人事を尽くして天命を待つ。これだけです。
演奏を終えて記念撮影。男はチューバのひとりだけ。 |
今日から夏の甲子園が始まりました。いつものことながら、強豪校ですらも「全力を出し切りたいと思います」というコメント。全力を出さなくても勝てるだろうと聞いているほうは思いがちですが、今回の共栄を見て考え方をあらためました。
いくらうまい選手でもベストを出し損ねたら負ける。北島康介ですらベストを出せなければ世界水泳平泳ぎ100mで4位です。全力を出し切ろうと選手全員が本気でそう思ってプレーする、選手全員に植えつけられたその精神性、それが強豪の強豪たる所以ではないのでしょうか。
強い奴が勝つのではなくて、勝った奴が強い。これが勝負の世界です。だから、まずは全力を出し切ることがなによりもの目標になります。
去年図らずも代表になってしまった共栄には、その実績が重すぎたような気もします。中高一貫ですから、昨年のメンバーがほぼそのまま残っています。同じメンバーであれから1年間のレベルアップを積んだのだからやれるはず、やらなくてはならない。そのプレッシャーが本番でマイナスに働いたのかもしれません。頭を空にして今年は今年の全力を出し切る。その心構えも必要だったでしょう。
もうひとつ、甲子園のテレビ中継を見ていますと、解説者たちの間では「気持ち」という表現が常套句になっています。
気持ちのこもった一球。気持ちで打ちました。気持ちで勝ってましたねえ。
私のような素人にはわからない気持ちのマジックとロジックがきっとあるのでしょう。でも、素人にもわかる部分はあります。練習で身につけた能力を引き出すのが気持ちだということです。身についていない能力まで気持ちが引き出してくれるという話ではない。共栄は、その点、気持ちで引き出せるものがまだまだ不足していたのかもしれません。
嵯峨根先生は、生徒たちにこう言いました。
今日の悔しさをバネにして、次はもっと高い水準の演奏ができるように頑張ってください。ありふれた言葉ですが、これしかありません。悔しさとは実力不足を思い知らされること。実力不足に気づいたときに勝つことの難しさにも目覚めます。親からは勉強、勉強、いい大学、いい大学といわれつつも吹奏楽の虫を続ける彼ら。おさちゅんはこれからも応援します。
それでは、2011年8月5日、第48回京都府吹奏楽コンクール高等学校B(小編成)、京都共栄学園吹奏楽部の演奏をお聞きいただけますでしょうか。曲は樽屋雅徳作曲「マードックからの最後の手紙」です。
それぞれの高校毎の演奏を収録したCDがステージ終了直後から販売されています。それを買ってきました。Youtubeにアップロードした音源はこれです。
【この日の昼食】会場近くの権太呂岡崎店
0 件のコメント:
コメントを投稿