2011-08-28
伊根花火大会 夏を締めくくろう
いつもは午後7時なら早くも寝静まったような伊根。
花火大会の日はちがいます。日が暮れれば暮れるほど人が動き出します。毎年、8月の最終土曜日が伊根の花火大会です。
子供たちは小学校側のメイン会場に集結して野外映画を楽しみます。今年は「シュレックフォーエバー」が上映されました。大人たちは海を渡って聞こえてくる映画の音声が止まるのを待ちます。映画会場が静かになれば花火の始まりです。
舟屋一軒ずつが提灯をともし、小さな光がまるで点線のように伊根湾を囲んでいます。
道にも人がいます。二階にも一階にも人がいます。海辺にも人がいます。親戚筋が、深い付き合いのある人が、よその町からやってきます。お客さんを迎えた活気は、開け放たれた窓の奥に見える電灯と人影。なごんだ空気が道にまで伝わってきます。
大阪、京都、神戸からの観光客のなかには、防波堤で釣りをしながら花火を待つ家族連れもいます。釣りに不慣れな美少女にもスズメダイがかかります。
今年は舟屋の里の駐車場がもう満杯になった。警備員さんたちたいへんみたい。歩いているとそんな会話が聞こえてきました。本当に徐々に徐々に、この町のスピードで、花火大会の人気が上昇している様子です。
わずか1000発、30分もしないうちに終わる花火大会ですが、伊根で見れば、花火大会は規模だけじゃないということがよくわかります。風情は演出で作り出せるものではありません。
夫婦で花火のベストショットを狙う老カップルもいました。望遠レンズを何度ものぞいては、わずかにズームリングを回したりして、構図決定に時間をかけています。
画角いっぱいの花火。照らし出される舟屋。色に染まる海面。山で増幅される爆発音。
それが伊根の花火大会です。
【おちゃやのかか】
早めに着いた私は、「おちゃやのかか」に寄ってみました。ぼちぼち人が集まっています。
「おちゃやのかか」というのは、古い家屋を改造した漁業資料館です。
伊根にしては若めの女性たちが浴衣姿で忙しく働いています。
おお、かわいいやんか、似合うぞ。おつかれさん。
まったく知らない女性たちですが、近所のおじさんになりすまして声をかけます。
コーヒーおねがい。ホット。今日はないの?忙しいから?そしたら氷イチゴにしとくわ。
注文のときも近所のおじさん。窓越しには海。
【伊根工房】
コーヒーが飲みたかった。
伊根工房はどうかなあ。この時間でもコーヒーOKかな。
奥さんは、向かいの駐車場で軽自動車を誘導中でした。
小さな軽自動車から背の高い外国人が連なって出てきました。京都市内かどこかで英語の教師をしているアメリカ人たちです。軽に乗ってきたアメリカ人がえらいのか、詰め込めた日本の軽がえらいのか。
奥さん、コーヒー、飲ませてもらえるやろか?浜でええわ。今日は浜で飲むほうがええ感じやろ。
「浜」というのは、舟屋の屋外。波打ち際のことです。
何度も行ってますから私はなれなれしい。奥さんに覚えてもらえてないだけのことで。
奥さんは陶芸家です。舟屋をシンボル化したような絵柄が魅力。奥さんなんて言ってますが、ひょっとしたら先生かもしれません。
静かな波のおかげか、流れ始めた海風のおかげか、私の心も静かになっています。それゆえでしょう、初めてこのコーヒー茶碗の軽さに気づきました。
持ち重りがしないとよく言いますが、それではなくて、不思議な浮遊感。器のほうから浮いてくる感じです。コーヒーがあまり入ってないのかな?いや、そんな理由ではない。たぶん耳の形状と重心バランスでしょう。
【舟屋の宿、鍵屋】
鍵屋にも提灯。他の舟屋に比べてまだ新しい。
海面をのぞきこめば、部屋からもれる照明に吸い寄せられた小アジの群れ。
これを釣ってそのまま食べればいいと、旦那のケンゴさんが言います。皮を手でむくだけで刺身みたいになるのだと。
鍵屋にも花火のお客さんたち。宿泊客ではなくて、つきあいの長い人たちが花火に招かれていました。
私はべつに招かれてませんでした。ふらりと立ち寄っただけでした。とくにけじめもないまま、いわゆるおさちゅんスタイルというやつで、仲間に加えてもらいました。
家の外にアウトドアー用の椅子を並べての観覧です。曇り空が星空に変わってゆく。空が暗くなると北斗七星。ひしゃくの柄が上に向いています。海の水を汲もうかとでも言いたげです。
うちは真っ正面に上がるから、右も左も向かなくていいと奥さんのミナちゃん。まさにその通りでした。願ってもない撮影場所に恵まれました。そやのに、この撮り損ないばっかしはいったいなんやねん。冒頭の動画のほうでお楽しみください。
そして、初物、秋刀魚。塩焼き。よばれてしまいました。
北海道から今日入ったばかりだそうです。脂がのってます。家で焼くのとはちがいますから、えらくおいしい。
しかも、ご飯は筒川産のコシヒカリ献上米。その献上米を育てた和田さんも花火に招かれていました。食卓のすぐそこに座っています。「お米、いただきます」と敬意を表してからお箸をつけました。そりゃ、もう、最後のひと粒まで敬意を表して。
【夏の終わりの1day trip】
1971年放送のNHK「新日本紀行 丹後浦島伝説」で40年前の舟屋群を見ますと、潮へのガードがもっと甘くて、南方系の水上生活を感じさせます。遠い昔、対馬暖流に運ばれて渡来した海の民。彼らの生活様式を偲ぶことができると、番組のナレーションが述べています。
この日、私は1day tripでした。
由良でみかんが収穫できるのは対馬暖流のおかげ。対馬暖流といえば、日本書紀や古事記にも記された丹後浦島伝説。浦島伝説といえば、宇良神社の浦島縁起絵巻には中国風の描写。中国といえば、徐福が上陸したと伝えられる新井崎。
その順番で丹後半島を回ってきました。そして、航海術に優れた海人(あまべ)族の拠点であったはずの伊根。そこの花火大会で1day tripを締めくくる。
この日も伊根は私の期待を裏切りませんでした。裏切るどころか、期待以上。秋刀魚の塩焼きと献上米の晩ごはん。
今宵も、現代の海人に感謝です。
そういえば、鍵屋のケンゴさん、「海人」と背中にプリントしたTシャツを着てましたよ。
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