2011-11-16
番外編:夢創庵(滋賀県甲賀市信楽町) さて、父は何処へ?
土日のランチタイムにはいつも行列のできる蕎麦屋さん。
順番待ちの客に愛想よく声をかける店の女性スタッフ。
順番待ちは蕎麦だけではありません。
この日は父親の老健施設と特養老人ホーム探しに出かけました。どこの施設も数多くの入居待ち老人をかかえていて、誰に入居が約束されているわけでもありません。
蕎麦なら待てば入れますけど、老人の現実は厳しい。
まあ、とにかく昼ごはんを食べようということで、信楽町の十割蕎麦「夢想庵」にやってきました。
老人施設探しの厳しい現実にもあまりめげていないこの二人は、私の姉と妻お龍です。二人ともなにやらヘルパーさんのような雰囲気を漂わせております。
焼き物の町信楽ですので、食器は当然のことながら信楽焼き。蕎麦粉も地元の信楽産。信楽という町は、この周辺でも特異的に冷涼な気候でして、蕎麦の栽培に適しているようです。
太打ちしか残っていないけれど、逆に太打ちの蕎麦を食べられるところは珍しい。そう店の人から言われまして、太打ちの蕎麦を食べました。
太いだけあって噛んで食べる蕎麦でした。
なにせ老健施設や特養老人ホームの内部を見学して車椅子の老人たちを目の当たりにしてきたばかりです。この太くて固い蕎麦をどれくらい楽に噛めるか、自分の老いをテストしてしまいます。
実は、抜けたままになっている歯があって、さほど楽に噛めませんでした。福知山市わきもとの細くてしなやかな蕎麦では気づかなかった小さな老い。太打ちの蕎麦が厳しく指摘してきました。
姉と妻お龍が食べた蕎麦の実入りプリン。蕎麦の実をカリカリっと噛み潰しますと香ばしくておいしい。二人は嬉々としてプリンを食べる。女というのは、頭と胃の距離が男よりも遠いのか、考えることは考えること、食べることは食べることみたいですね。
施設に入居中の老人を数多く見た結果、ふたつのことをいやというほど実感しました。
ひとつは、足腰を鍛えておけ、です。足腰が強くなければ、長生きの時間を有意義に使うことができません。
うちの父親だってそうでした。平和堂やセブンイレブンに買い物に行きたい気持ちを抑え切れなくて、自分ひとりで出かけてしまった。ところが、なんでもないことで転んでしまった。足腰さえしっかりしてれば転ぶはずもなかった。そして、骨折→入院→手術→車椅子。この状態で妻の待つ自宅に帰ったところで、90歳どうしの夫婦ではどうにもなりません。
そこで、老健施設か特養老人ホームで世話になる必要性がいきなり高まったのですが、上述したように、どこもここも行列をなして入居希望者が待機しています。
さて、父親は何処へ?天国だって、希望してすぐ行けるもんでもないですしね。
もうひとつは、長生きなんかしたくないということでした。
日本は世界一の長寿国だとかなんとかで、長生きがめでたいといわれてきました。その無邪気すぎる価値観は疑う必要ありだと思いました。めでたい長生きとめでたくない長生きがあると言い直さなくては。
老健施設や特養老人ホームに入っているご老人たちにはまことに申し訳ないのですが、あの暮らしが楽しいとは、私にはまったく思えませんでした。長生きのペナルティーに見えました。
東京厚生年金病院の転倒予防教室チームを長く率いてこられた武藤芳照先生(東大副学長)は、「長寿と長命は違う」と早くから説いておられました。運動能力を鍛えてピンピンコロリの長生きを目指そうと、著作や講演で呼びかけておられました。
転倒予防教室のプログラムには歩行速度を上げる訓練というのもありました。信号が赤に変わるまでに横断歩道を渡りきるには、10mを15秒以内で歩く必要があるそうです。それができないと町歩きが不便です。
蕎麦で始まった記事ですから蕎麦で閉めるなら、長寿を願う年越し蕎麦を今年からはやめようかと思います。
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